勇気を出して、空を見上げて。
「なになに、教える気になった?」
「誰が教えるか。私が一番できないんだから」
「つってもおかん詩月と同じくらいじゃん」
そう言ったのは詩月だ。でも点数からして負けは負け。
「そうだけど! でも! あ、国語は負けないから」
「理系クラスの発言じゃないよね」
「すみませんねぇーっ」
じゃれあいながらファイルの中を確認して、数枚のプリントを引っ張り出した。
国語総合と数学、世界史、物理の問題だ。
「なにー?」
「小説。書きっぱなしなの忘れてた」
「え。よくそれで返却乗り越えたね」
「出席番号順だから」
「そういえばそうだった」
きっかり四十人のこのクラスでは、両端の二列だけが六人で、中の四列は七人。出席番号だと廊下から二列目の後ろから二番目になる。
十番の大村花野。通称ハナちゃん。
十一番の片岡詩月。通称詩月。
十二番の私は、片浜心音。通称おかん。
私だけ何の脈絡もないあだ名なのは、中学の頃からこれだからだ。それに私のこのあだ名を付けた張本人の友達が同じクラスにいる。
ちなみにその中学からの同級生は佐地美裕。通称さっちーだ。
「今書かなくていいの?」
「うーん……ここまで来たらもういいかな。今日部活で写す。どうせやることないし」
「嗚呼……まあ、そうだね」
「あの部活いつだって遊んでるもんねー」
「正直おかんとかさっちーが入ってなかったら怖いイメージしかない」
「ごめん詩月否定できない」
文芸部所属の私は物書きである。読書好きでもある。小説に触れていられればいい。
カオスな部室とその面々を思い浮かべながら、私は詩月に答えてファイルにプリントを仕舞った。今のは確認がしたかっただけだ。
「てかそろそろ文化祭だねぇ」
「来月かー……私嫌な予感しかしないんだけど」
「おかんさっちーと一緒にいるもんね。おかんだし」
「そうそうおかんだし」
「それ言っとけば何とかなると思ってるでしょ?」
「思ってる」
正面から肯定されたのでどうしようもなくなって口を噤んだ。それにハナちゃんと詩月が笑う。
「それより私はこの席が問題。文化祭は、もう、諦めるっつーの……」
「あははっ。死活問題だもんねー」