勇気を出して、空を見上げて。

交差する、線


◆side:心音


夏休み。


二学期制のため終業式ではなく全校集会を終えた、土日明けの月曜日の朝である。


「おかーんごめーん!」

「お疲れおはようさっちー」

「うん! おはよう!」


じゃあ行くぞ、と声をかけて、自転車のペダルを踏み込んだ。そのちょっと後からさっちーが着いてきて二人で並ぶ。


夏休み、初日。朝七時五十四分。


長い課外生活の始まり。


「眠い!」

「そうだね―朝飯はー?」

「食べてない!」

「だろうねー」

「あ、でもおかん見て! じゃがりこ!」

「何持ってきてんだおい」

「朝ご飯ー!」


そう言って半分ほどふたを開けたさっちーがじゃがりこを食べ始めた。隣で自転車を漕ぎながら、私は呆れた目を向ける。


朝ご飯がじゃがりこってなにそれ初めて見た。


中学が同じ私とさっちーは、お互い家から十分ほどのところにある交差点でいつも待ち合わせをしている。


平常授業の時の待ち合わせ時間は七時十五分だが、それは学校に八時半までには着いていないといけないからだ。


今週いっぱい、課外が始まるのは朝九時からなので、待ち合わせ時間を七時五十分にしておいた。


さっちーが遅刻してくることは織り込み済みだ。


学校までは、自転車で四十分。


バスはあっても一本逃したら遅刻確定。朝課外で七時半までに学校に行かなければならないとなるとそれに間に合う分はない。


それでもバス停まで徒歩十分の時点でマシなもの。


さっちーは最寄りのバス停までは三十分かかるため、雨の日は大抵お母さんの送迎だ。


かくいう私も、じいちゃんが結構送り迎えしてくれるので朝は軽トラだったりする。


雨が降っていない限りは二人でえっちらおっちら駄弁りながら通うのが常だ。


夏なんて基本晴れているから特に。


何もない不便な田舎。あるのは畑と田圃とスーパーと薬局、農家向けの資材売り。あとは個人経営の商店くらい。


服なんて学生向けかおばさん向け、本屋なんてない。


それでも、この町が嫌いじゃないと思うのは、きっと小さい頃からそういう環境で育ったからだと思う。


元々母親の実家も農家で、今と大して変わらない生活をしていたのだ。現在住んでいるのは父親の実家、こちらも農家なのでそういう生活しかしてきていない。

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