勇気を出して、空を見上げて。

農家同士が結婚したところで、子供が都会人になれるわけがないのだ。


昔から木登りだの三角ベースだの鬼ごっこにかくれんぼだの、自然相手に様々な遊びを繰り広げてきたため寧ろ都会の自然の少ない中で生きていける自信が無い。


「おかんー」

「なに?」

「一限なんだっけ」

「なんだっけ!?」

「なんだっけじゃないどこだっけ」

「びっくりしたわ」


何のために学校来てるんかと。科目は覚えておいてくれ。


「視聴覚じゃねー?」

「あーあそこかー……遠い」

「多分涼しいから我慢しろ」

「はーいおかーさーん」


ちまちまとじゃがりこを口に運びながら、さっちーが教室の遠さにぶーたれる。


それに呆れながら言葉を返すと、けらけらと笑いながらふざけた答えを返された。溜め息で返しておく。


「てか一限つーより午前だけどな」

「え。そうだっけ」

「三時間ぶっ通しー」

「えぇぇー」


やだ寝る疲れる、とリズムよく言ったさっちーに今度は私が笑った。


背中に当たる日の光が暑い。


リュックを背負った背中がじっとりと汗ばんでいる。


二つ目の信号で止まると、さっちーがチャリのハンドルにもたれながら盛大な溜め息を吐いた。


「帰りたいー」

「もう半分来たんだから行くよ」

「やーだー」

「やだじゃないのほら信号変わった!」


何度かそんなやり取りを繰り返し、何とか学校に着くとチャリ小屋にチャリを止める。


いつの間にか食べ終わっていたらしいじゃがりこのカップを潰しながら、さっちーは何度目か分からない溜め息を零した。


どれだけ憂鬱なの。


昇降口で靴を履きかえて、向かう視聴覚室は特別棟の四階の端っこ。


昇降口のあるのは教室棟で、主に普通教室のある棟だ。特別棟は物化生地の実験室と講義室が教室棟を背にして左側、右側はパソコン室や図書室、研究室など。その最上階の右端に視聴覚室がある。


要は昇降口から一番遠いということだ。


「階段疲れる……」

「喋る、から、だよ」

「チャリの後の階段……」


体力的にとても辛い。

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