勇気を出して、空を見上げて。
鍵を開けてもらうとすぐに教室に入った。先生がエアコンのスイッチを入れるのを横目に、私は電気のスイッチを押す。
土日を挟んで足かけ二日以上、誰も入っていなかった教室は思ったよりも蒸している。
それでも冷房が駄目な私がなるべく風の当たらないところを探して座ると、隣にさっちーが座ってくる。三連の椅子の真ん中に私、右側にさっちー。左は空き。
「じゃあプリント配っていくよー」
「やった、ありがとうございまーす!」
「立たなくてよかった……」
「どうしてそんなに疲れた顔してるの」
ぱらぱらと座った生徒に先生がプリントを渡していく。余った分は一番後ろ、入り口すぐの椅子に纏めて並べて置いていた先生がさっちーの言葉に笑う。
自転車疲れるんですよー、と机にだーっとしなだれながら零すさっちー。それに笑って同意すると先生が嗚呼、と納得したように頷いた。
「あ、先生私木曜休みまーす」
「そうなの? じゃあプリント、」
「プリントはさっちーに頼んであるので!」
「頼まれてまーす」
じゃあいいね、と先生は教卓の向こうへ。機材を弄っているのはパワーポイントを使うからなのか。
うーんと唸っているのを眺めていると、後ろからおかん、と声をかけられた。その後にさっちーとついてくる。
「あ、詩月おはよー」
「おはよう! ここいい!?」
「いいよーどうぞ」
「おしっ疲れたー!」
この詩月、自転車通学である。
空いていた左側の示して、許可を出すと滑り込むように詩月が座った。三連の席で正解だ。
視聴覚室は、両脇が三連の椅子、中央に十連の椅子がある。中央の椅子だと両脇に座られたらもう真ん中には座れない。
「ハナちゃんはー?」
「今週は取ってないって言ってたよ」
「あー今外出禁止令出てるんだっけ」
「え、そうなの?」
「そうらしいよー。でも何、来週は来るんだ」
「取ってあるもんは仕方ないって」
「それもそうだ」
「森山はー?」
「部活」
「嗚呼そっか」
ハナちゃんのうちはちょっと過保護で、何かケンカして外出禁止令が出たって言っていた。森山は単純に部活だ。バレー部。
喋っているといつの間にか時間になっていたらしい。先生の静かにーという声がして、口を噤んで視線を前に向ける。
しーんと静まっていくのを確認して、私は筆箱のポケットを漁るとメモ帳を取り出した。両隣の二人に笑われる。