勇気を出して、空を見上げて。

解散を口にしたところで担任が教室に入ってきた。


タイミングの良さに思わず笑いつつ、席に戻る二人を見送る。机に仕舞ってあった小説を出して、栞のページを開いた。


登校は八時二十五分まで。でも実質二十分からは読書タイムが始まる。半から朝のSHRだ。


まだ微かに話し声の残る教室内。担任が注意して回って、すぐに静かになる。


小説が、好きだ。


読むだけじゃなくて、書くことも。


だって、小説は否定しないから。全部私の自由だから。


「はい、じゃあ号令ー」


担任の、男性にしては少々高い声が教室に響く。委員長が号令をかけるのに合わせて挨拶をする。


新しいページに栞を挟み直して、小説を机の中に滑り込ませた。


そう、小説が好き。


それは、みんなが理解している以上に、きっと。


すぐに終わったSHRに、仕舞った小説を即座に出して読み始める。いいところ、だから。何回か読んではいるけど。


「片浜さん、それ何読んでるの?」

「先生も読みます? アニメ化もしましたけど」

「あー……聞いたことあるかも。面白いの?」

「面白いですよ。まあ、長いっちゃ長いですけど」

「何巻?」

「本編は四巻ですね。番外で一巻あるんで全部で五巻」

「この厚さで……俺そんな時間ないなあ」

「先生地味に忙しいですもんね」

「そう俺、下っ端だから」


興味津々に覗き込んできた担任がそう言って忙しそうに教室を出ていく。それを見送って、再び小説に視線を落とす。


「あ、ハナー、あとでCD貸してー」

「あ、うん! ちゃんと持ってきたよ!」

「そりゃ何日待たされたと!」

「ごめんてぇ詩月ぃー」


落として、聞こえる声を遮断する。なにも、聞こえない。


小説が好きだ。それは、私の逃げ。


逃げ場を探して行きついた、私の唯一絶対の、憩いの場。


ハナちゃんと詩月は、仲が良い。二人が最初に仲良くなって、私はその後から入った形だから。


さっちーには森山がいる。部活は一緒だけど、教室でもそうってわけじゃない。


私は本当にハナちゃんや詩月といていいのか、さっちーといていいのか、分からない。


だから、逃げる。小説に。それしかないから。


絶対に、私を受け入れてくれるから。小説は人を否定しないから。


だから、私は、小説が好きだ。




────そしてきっと、助けを求めてる。

< 5 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop