勇気を出して、空を見上げて。
大丈夫だよ、心音ちゃん。あたしもユズも星も、みんないるから大丈夫。
あたしはこの子を、心音ちゃんを助けたい。
星たちがあたしを掬い上げてくれたから。あたしも、誰かを掬い上げたいと思って。
そのためには、自分の問題も片さないといけないんだけど。
でも多分、すぐには出ていかせてもらえない。それに今ここで抜け出したところで、という問題もある。
もう少し厄介になって、体力をつけるか。それとも、彼女を優先するか。
でもまだやっぱり、お邪魔していよう。
これも逃げ、なのかもしれないけれど。
一度優しさに触れたら、もう自分から捨てることなんて簡単にはできない。
「ね、心音ちゃん。また来てよ」
「……うーん、はい、?」
「疑問形かあ。寂しいなあ」
「行くには行きたいですけど……」
お、と片眉を上げる。これは言質取った、かな。
「よしじゃあ約束ね! ユズと星に言っておくから!」
「ちょっ、え」
「じゃあ隣で人待ってるからあたし行くね! 絶対来てね!」
心奈先輩、と呼び止める声に笑顔を返して文芸部室を出る。会話駄々漏れだったせいか、逃げてきたの、と顔面に呆れた表情を浮かべる生徒会長にぎこちない笑みを返してから、あたしはパイプ椅子に腰を下ろして一息吐いた。
きょとん、とした他のメンバーを笑顔でごまかし、バッグから必要なものを探し出す。筆記用具と、宿題。折角理系の生徒会長がいるし、数学を片付けてしまおう。
「田崎は何がしたかったの」
「えー……うーん、人助け?」
「はぁ?」
「とりあえず、撤回されないうちに逃げてきた」
「なるほど?」
分かったのか分かっていないのか、頷いた生徒会長があたしから視線を外して同輩の指導に戻って行った。絶対に分かっていないと思うけど。
その細い指を見ながら、大嫌いな人を思い出す。最近会っていないどころか、連絡すら取っていない。
まあ、もともと連絡なんてほとんど取っていなかったけれど。用事がある時だけ、連絡をして。それで会って、それだけで十分な関係だった。
他の相手だって何人もいるのに、思い出すのはいつも彼。
そういえば、最後に会ってからもう一ヶ月以上は経っている。それもそうだ、オーキャンでぶっ倒れて星に強制保護されてから、ひと月は経っているのだから。
それだけの期間、あたしは家に帰っていない。
学校だと嘘を吐いて、そのまま帰るか。金曜日がいいな、次の日が休みだから。学校にばれるのが一番困るし、面倒臭いことになる。……まあ、一般的に見たらそれが一番いいのかもしれないけど。