勇気を出して、空を見上げて。
本当の私を、知られたくないから。
二人の闇を知りたい。二人の力になりたい。先輩だって。私に頼ってほしい。
だから、私のことを知られてはいけない。
年上相手に何を思ってるんだ、そんなこと言われなくても分かっている。二人からしたら、私なんてまだ未成年の小娘で、何もできやしない守るべき存在のはずで。
それを分かっていても、私は二人を守りたいと思う。
そうじゃなきゃ。だって私は『おかん』だから。頼られていなきゃいけない。
だって。
「……ごめんなさい、やっぱり今週は無理そうです……」
「んー、そっかあ。仕方ないね」
「柚都さんにも星さんにも悪いんですけど」
「あ、二人はそんなに気にしてないから大丈夫でしょ」
「そんなにってことは気にしてるんですよね」
「言葉の綾だから! でもまた来てよね、ってあたしが言うのも変だけど」
「確かに。でも、行きたいです。というか、二人に会いたいなあ」
会いたい。会いたくないけど。
今の私はどっちだろう。会いたいのか、会いたくないのか。────つまりは、知られてもいいのか、知られたくないのか。
そんなの、答えなんて決まっている。
「おっけ言質取ったから」
「えっ」
迂闊なことを口にした。でも、分かっていて口にした。
いいですよ伝えてくださいよ、と投げやりな言葉を返しながら、私は笑う。意識して。それを気付かれないように。
「じゃあまた放課後かな、お昼邪魔してごめんね!」
「あ、はい。またあとで」
ばいばい、と小さく手を振った彼女が、文芸部前の階段から下りていくのを見送った。教室の中に戻ると、さっちーがもそもそと弁当を食べながらぱちぱちと目を瞬かせている。ごめんごめん、と声を掛けながら席に着くと、口の中のものを呑み込んださっちーにおかえりと声を掛けられた。
「ただいま」
「結構話長かったね。どったの?」
「今週末遊ばないかってお誘い。断っちゃったけど」
「え、なんで。……色々なんで?」
「とりあえず習字があるからかな?」
「嗚呼、そうだったね。で? どうして田崎先輩?」
そういえば、あの夏休みの部室でのお話は、私一人しかいなかったか。それもそうだ、さっちーを待っていたのだから。
ということは、そうか、さっちーって私と田崎先輩が仲良くなった、と言っていいのかは分からないが、よく話す仲になった理由を知らないんだった。
「うーん……簡単に言うと、……なんだろう……?」
心奈先輩が熱出してぶっ倒れたのを助けようとしていたらその日顔見知りになったばかりの大学生のスタッフさんとそのお友達の家に一緒に行くことになったとか言えない。かといっていい例えも思いつかない。