勇気を出して、空を見上げて。
「頑張っておかん、物書きでしょ思いついて」
「なにそれなんという無茶振り」
「だって気になるんだもん。夏休みに何かあったの?」
そうだよさっちーは割とそういうところ知りたがりだったよ。
「んー……オーキャンで一緒になって困ってるのに声かけて、その後さっちーの課外待ちで部室にいるときに先輩が生徒会の勉強会で学校来てて喋ったのが始まり、かな?」
「へー? 嗚呼、勉強会ってあれか」
「そうだあれだ」
「あそこにいたんだ……」
どうやら話を逸らせたらしい。生徒会長ありがとう。
一応嘘は吐いてない。大分端折ったけど、主に柚都さんと星さんの辺りを。
でも多分、心奈先輩も知られたくはないだろうし。言いふらさない方がいいだろうなってことくらいは言われなくても分かる。口止めされているわけじゃないけど、その辺りの分別くらいはつくつもりだ。
あれ、というのはあの話のあとの生徒会室で話していた要は下ネタのことである。勉強はどこに行ったと思った。あとどうして男子一人だったのに女子の中に馴染めるのか生徒会長が不思議だった。最近何となく分かりつつあるけれど。
お昼を再開したさっちーからそれ以上質問が出てくることはなく、私は内心で安堵しながら箸を手に取った。隠すのは得意だが、あまり隠し事は作りたくない。私自身のことだけで正直十分だ。
嗚呼、そうだ。柚都さんにも直接、断りの連絡を入れておいた方がいいかもしれない。
「おかん、私寝る」
「おうそうか、おやすみ。何時?」
「一時でお願いしますお母様」
「了解一時ね」
弁当箱を片したさっちーの宣言に端的に返すと、机の上につっぷし始める。それを横目に自分は携帯を開くと、受信履歴から柚都さんを探し出した。
あっちはまだ夏休み。今日はバイトだろうか、それとも家でのんびりしているだろうか。
大学生は夏休みが長くていいなあ、と思いながら自分の夏休みを思い返す。課外しかなくて休みはお盆の数日くらいだった。きっとあと二年は同じだ。
『心奈先輩から聞きました。また行けなくてすみません』
件名はなし。本文のみで送信。
自分でも、時折自分がよく分からなくなる。話したいのか話したくないのか。だからいつだって会話は手探りだ。
探り探りの会話。きっと柚都さんもそうだろうなと思う。
一体私と柚都さんの関係ってなんだろう。友達とは違って、恋愛感情を持っているわけでもなく、かといって他人というほど遠くはなくて、知り合い、というにも少し遠い。