勇気を出して、空を見上げて。


星さんもそうだし、心奈先輩も、突き詰めてみると先輩後輩とはまた別だな、と思ってしまう。


さっちーは中学からの友達で、詩月とハナちゃんは高校からの友達。文芸のメンバーたちは部活仲間、とそれぞれ名前はつけられるけれど、先輩はちょっと違う、気がする。


それはきっと、オーキャンで強がっている姿を見てしまっているから。いつもは見せない甘えた姿を、少しだけ垣間見てしまったから。


多分、否確実に不本意だったと思う。だから基本的に私からあの話題は出さない。心奈先輩も、あまり触れない。


名前のない繋がり。


それでいいのだろう。無理に名前をつけなくたって、他人に説明しろと迫られているわけではないのだから。


でも何となく、漠然とした関係が嫌で。どうにかして私の中の基準枠にはめ込もうとしている気がする。


新規フォルダでも作ればいいのにな、と自分の不器用さに苦虫を噛み潰した。表情に出すことはなく、机の中から取り出した小説を開く。と、携帯がメールの受信を知らせて、栞を挟み直すと素直に携帯を手に取った。


『心奈から聞いたよ。そんな気はしてたし、大丈夫。忙しいんだね、心音ちゃんは』


案の定柚都さんからだったメールを開くと、きゅっと唇を結ぶ。多分、気を遣わせている。なんて返せばいいだろう。


『すみません、習い事があって土日はなかなか。駅までも遠いし、出歩けなくて』

『そういえばそう言ってたね、最初に話したとき。そればかりはどうしようもないしねえ……今度は俺が会いに行くから待っててね』


「そういうのって普通彼女に言うのでは」

「え? おかん彼氏いるの!?」

「びっくりしたあ詩月声大きいからね! 彼氏なんていないからね! 旦那には逃げられて四つ下の娘がいるとあれほど」

「そうだった」


そういう設定である。気付いたらそうなっていた。四つ下の娘は四つ下の妹のことだ。中学の時に本気で間違えて娘だと知らない人に紹介してからネタになっている。


すぐ傍にいた詩月に驚きつつ、素直に納得してくれたようで安心した。彼氏いない歴イコール年齢を更新中。子供は欲しいので旦那は欲しいが今のところ考える相手はいない。


『そういうのは彼女さんに言ってあげてくださいね。それに別に会えなくてもこうして話してるじゃないですか』

『彼女は今のところいないし出来る予定もないなあ。心音ちゃんって結構現実的だよね。手厳しい』

『そんなことはないと思いますけど……別に、会わなきゃいけない理由はないかな、と』


直接顔を合わせないからこそ言えることだってあるわけで。


柚都さんがそういう相手だとはちょっと言えないけれど。


『まあ確かに、会わない方が言えることもあるかもね』


考えていたことがそのまま返ってきて、少しだけどきりとした。ほら、こういうところだ。考え方が似ている。


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