双子の御曹司
数週間後、稔君はお父さんと来店された。
「いらっしゃい稔君。今日はパパと一緒なんだね?」
「うん! チェンジバックル入ってる?」
「入ってるよ!」
稔君は喜び勇んで、お目当てのおもちゃを見に行った。
何だか視線を感じ振り向くと、稔君のお父さんは私の顔をじっと見ている。
え? なに…?
私の顔に何かついてる?…
「本当に分かるんですね?」
稔君のお父さんから突然発しられて言葉。
「え?」
「先日、竜仁… いや、弟から私達を見分けたと聞いて驚いたんです。両親と、私の妻以外に私達を見分けた人は居なものですから?」
「はぁ…そぅなんですか…?」
そう言えば、稔君の伯父さんもそんなこと言っていたな…。
「失礼ですが、今、お付き合いされている方は?」
「はぁ? い…いません!」
突然で、なおかつ、思いもよらない質問に、思わず正直に答えてしまった。
何だこの人…?
奥さんも子供も居るのに、まさかのナンパ?
お客様ではあるが、不信に思って見ていると、そこへパートの佐野さんから声が掛った。
「失礼いたします。 チーフお客様からお電話です。先日の客注の件で…」
私は佐野さんに頷いて、稔君のお父さんに向き直る。
「申し訳ありませんが、失礼いたします。」
私は稔くんのお父さんに、断りを入れその場を離れた。
その後バックヤードで、入荷商品の検品をしていると、凪沙が駆け寄って来た。
「ちょっと、遥! お客さんにナンパされたんだって!?」
「えっ誰に聞いたの? あー佐野さんか…?」
これじゃあっという間に広がるな…。
私は、思わず苦笑する。
「イケメンだったらしいじゃん?」
「まぁ、イケメンはイケメンだけどね…?」
私は小さく溜息をつく…
「よし! 今夜飲みに行こう? ゆっくり聞かせてもらうよ! 今日早番でしょ? じゃ後でね?」
私の返事も聞かないで、凪沙は売り場へ戻って行った。
どうして、稔君のお父さん、あんな事聞いたのかな?…
見た感じはイケメンだし、優しくて紳士的だからモテると思うけど……
家族で来店された時も、奥さんやお子さんを大切にしている様に、みえたんだけどなぁ…
全然ナンパするようには、見えなかったんだけど…
あれ、本当にナンパなのかな?
まさかねぇ…違うよね?…
もしそうなら私、人間不信になっちゃうかも…