双子の御曹司
1年前、K店、玩具売り場に移動となり、通勤時間10分から、1時間半と少々遠くなってしまった。
朝は出勤時間が遅いので、苦にはならないが、帰りが遅い。
その為、一度は引っ越しも考えたが、住み慣れた部屋がやっぱり良く、今は頑張って通勤してる。
仕事はというと、これが困った事に、男児玩具や育児玩具などまったく分からない私。
おもちゃ全般、分からない。
今、流行りのキャラクター? アニメ? ましてや育児玩具など、独身で子供のいない私が分かるはずもなく、何とかしなくてはと、教育番組やアニメそれから特撮ヒーロー番組まで、あらゆる子供番組を録画して、それを見て勉強する日々を送って居た。
最近では男の子に、特撮ヒーローの武器がなんちゃらと言われても、商品を案内する事も出来るようになった。
その為、彼氏のいない私の休日は、録りためた物を見るのが当たり前になっている。
我ながら寂しい生活を送っていると思う。
しかし初回だけは、その日に見なくては、来店する子ども達について行けないのである。
「遥、お疲れ!」
閉店後更衣室に入ると、子供服担当で同期の佐瀬部、凪沙(させべ なぎさ)が声を掛けて来た。
凪沙は、可愛らしい見た目と違って、行動派で、男性にもはっきりものを言う。
そんな彼女とは、出会った初日から、なぜか気が合っていた。
「お疲れ! 早いね?」
「この後、鳶に行かない? 今日、新メニュー出てるでしょ?」
私達の行きつけの居酒屋 ″鳶″ は、月始めに1ヶ月限定で、店長の創作料理が新メニューとして登場する。常連客は毎月それを楽しみにしているのだ。
勿論、私達もそれを楽しみにして、月初めは必ず ″鳶″ に顔を出してる。
「ごめん… 今日から新番組が始まってるから、今日はやめとくわ?」
「ゲェー! あんたまさか帰ってから録画 (見るの?)そんなのカタログ見てたらいいじゃん!」
凪沙は目を丸くして驚き、呆れる。
店長の新作料理は気になるし、″鳶″ に行きたいのもやまやまだけど、こればかりは、部門移動した時に、自分で決めた事だから譲れない。
「うん… でも見ないと分かんない事もあるからさ?…ごめん。」
「分かった。また誘うわ? でも、程々にしなよ?」
凪沙は苦笑し「じゃーね!」と手を振って更衣室を出て行った。