双子の御曹司

駅前のタクシー乗り場に行くと、10人ほど列んで待っていた。

「あー、今日は金曜日だぁ…」やっぱり電車で帰ろうかと思っていると、「こんばんは、渡瀬さん!」と声が掛かる。
声がした方を見ると、今まさにタクシーに乗り込もうといてる人がこちらを見てる。

「あら? 稔くんの…」

稔くんの伯父さんだった。

「ご一緒しましょう? どうぞ?」と声を掛けてくれたが、まさか乗る事は出来ない。

「いえ、大丈夫です。」

「遠慮なさらずに?」

「………」

遠慮してるわけじゃなくて、無理でしょ普通に? だって知らない人に、家を教えたくない。

素敵な人だと思うけど、よく知らないし…

その時タクシーの運転手さんから「お客さん乗らないんですか!?」と、早くしてくれとばかりに声がかかる。

並んでいる人からも早くしてくれと、冷たい視線を向けられる。

私は仕方なく、相乗りさせてもらった。

「渡瀬さんどちらですか?」

「あっ港です」と言うとタクシーは走りだした。

「あの…」

私は、この人の名前も知らない。

「はい?」

「お名前は…」

「あっすいません。西園寺、西園寺竜仁と申します」

「私は…」

「存じております。渡瀬遥さん。」

「え?」

「職場の人が呼んでるのを…」

「そうでしたか?」

「西園寺さん、ご自宅は?」

「丸の内です。」

「えーそれじゃ、方向逆じゃないですか?」

西園寺さんは驚く私を、気にしないで話しだした。

「いつもこんなに遅いんですか?」

「あっいえ、今日は同じ売り場の子と、食事をしていたので…」

「そうでしたか?」

西園寺さんは、一瞬ほっとしたような顔を見せた気がした。

気のせいだろうか?……




< 26 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop