双子の御曹司
駅前のタクシー乗り場に行くと、10人ほど列んで待っていた。
「あー、今日は金曜日だぁ…」やっぱり電車で帰ろうかと思っていると、「こんばんは、渡瀬さん!」と声が掛かる。
声がした方を見ると、今まさにタクシーに乗り込もうといてる人がこちらを見てる。
「あら? 稔くんの…」
稔くんの伯父さんだった。
「ご一緒しましょう? どうぞ?」と声を掛けてくれたが、まさか乗る事は出来ない。
「いえ、大丈夫です。」
「遠慮なさらずに?」
「………」
遠慮してるわけじゃなくて、無理でしょ普通に? だって知らない人に、家を教えたくない。
素敵な人だと思うけど、よく知らないし…
その時タクシーの運転手さんから「お客さん乗らないんですか!?」と、早くしてくれとばかりに声がかかる。
並んでいる人からも早くしてくれと、冷たい視線を向けられる。
私は仕方なく、相乗りさせてもらった。
「渡瀬さんどちらですか?」
「あっ港です」と言うとタクシーは走りだした。
「あの…」
私は、この人の名前も知らない。
「はい?」
「お名前は…」
「あっすいません。西園寺、西園寺竜仁と申します」
「私は…」
「存じております。渡瀬遥さん。」
「え?」
「職場の人が呼んでるのを…」
「そうでしたか?」
「西園寺さん、ご自宅は?」
「丸の内です。」
「えーそれじゃ、方向逆じゃないですか?」
西園寺さんは驚く私を、気にしないで話しだした。
「いつもこんなに遅いんですか?」
「あっいえ、今日は同じ売り場の子と、食事をしていたので…」
「そうでしたか?」
西園寺さんは、一瞬ほっとしたような顔を見せた気がした。
気のせいだろうか?……