双子の御曹司

その後、会話が途切れて、気まずくなってしまったので、私は稔君の話をした。

「あの…稔くんは元気にしてますか?」

「一昨日の夜から少し熱を出して、幼稚園を休んでいるようです。」

「えっ!? 大丈夫ですか?」

「えぇそんなに酷くないらしいです。今朝はもう熱は無いと言ってましたので、ただ幼稚園に行けなくて、『つまらない』と言ってましたけど…」西園寺さんは稔君の話をしながら、その時の事を思い出してるのか、頬を緩ませていた。

稔君の容態が気になったが、酷くないと聞き、私は安堵した。

「良かった…」

「本当に優しい方なんですね?」

「いえ、そんなこと無いです。あっ!」

今日メーカーから、送られてきた物を思い出し、かばんを開けた。

「あの…これ稔くんに渡してもらえますか?」と忍者丸の下敷きを差し出す。

「稔に?」西園寺さんは少し首を傾げて聞く。

「はい。メーカーさんが送って下さるんですけど、非売品で、数も少ないため、お店で配れないです。」

「宜しいのですか?」

「はい。お見舞といっていたら、失礼なんですけど…稔くんが喜んでくれると良いのですが?」

「有難うございます。明日にも渡してやります。すごく喜ぶと思います。」

「西園寺さんは、稔君をとても可愛がっていらっしゃるんですね? 西園寺さんは、まだお子さん居らっしゃらないんですか?」

私の問いかけに彼は眼を丸くして驚いている。

ん?
私、そんなに驚くこと言ったかな?…

「…僕はまだ独身でして…」西園寺さんは、頭の後ろを掻いて苦笑する。

「え? あー失礼しました。」

私は勝手に結婚していると思ってしまっていた。

なんて失礼な事を言ったんだろう……

私は慌てて頭を下げると、西園寺さんは「気にしないで下さい。」と微笑んでくれた。

最初は戸惑い話しにくかったけど、後半は自然と会話が出来ていた。

タクシーが止まり、アパートの前に着いたのだとわかると、料金メーターを見て財布からお札を取り出す。

「稔にお見舞いを頂いたので、そのお礼と言う事にさせて下さい。」と言って、彼は受け取らなかった。

お見舞いのお礼にしてはあまりにも、金額が高すぎる。それもメーカーからの送られた物なのに。
しかし、頑なにお金を出しても、多分、彼は受け取らないだろう?

「すいません。お言葉に甘えます。有り難うございました。」とタクシーを降り会釈する。

西園寺さんは「じゃ水曜日?」と言って扉は閉まった。

タクシーは西園寺さんを乗せて、走り去って行く。

今度の稔君の通院日は、水曜日なんだ?




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