双子の御曹司
休憩も終り売り場に戻ると、麗華ちゃんに声をかける。
「戻りました。麗華ちゃんごめんね? 休憩入って!」
「はーい! 行ってきまーす。」
平日のこの時間は、他の売り場と違ってお客様は少ない。
「今のうちに、書類関係片付けるかな?」
レジ横でまだ出来上がってない企画書類を広げ、考えこむ。
夏休みの企画は親子で楽しめるものがいいよねぇ…
特大3Dパズルの組み立てってどうかな?
確か展示会に出てたよね…今から間に合うかな?
水野に電話して見ようかな…?
書類に没頭していていたようで、時間が随分立っていた。
「戻りました。」
麗華ちゃんの声に振り返ると、そこには水野が麗華ちゃんと一緒に居た。
「お帰りって…水野!? どうしたの? 今日、巡回の日だった?」
「いや違うけど、ヘルプで来た。」
「ヘルプ?」
頼んでないけど…
だってヘルプをお願いする様な仕事無い。
レイアウト変更も終わったばかりだし…
「渡瀬、フル5勤だって? 明日見合いだろ? 肌やばくないか? 今日は早番で上がれよ? 伊月さんにも話し通してあるから!」
「もう! そんなにガチの見合いじゃないし!!」
「遥さん、たまには水野さんに甘えても良いじゃないですか?」
麗華ちゃんはニコニコ嬉しそうだ。
「あーそう言うこと? 麗華ちゃんが電話したんだ? フーン。」
水野に会いたかったんだろうと、からかいの目を向ける。
「だって遥さん、無理でも絶対無理って言わないじゃないですか!?…ゴールデンウィークの時だって、貧血起こしてたし…」
麗華ちゃん…私の事心配してくれたんだぁ…
「麗華ちゃん有難う。」
本当にこの子優しいな…
麗華ちゃんの気持ちありがたく受けよう。
「じゃー早番で上がらせてもらうね?」と微笑んでみせる。
すると麗華ちゃんも安心したようで微笑む。
その時、水野が、広げてあった書類に視線を向ける。
「企画書か?」
「そう! この間話してた企画書なんだけど…どぅかな?」
「親子での企画か? 良いんじゃない?」
「手配できるかな?…」
「今から俺、メーカーに電話してみるよ? 企画書貸して!」
水野は書類を受け取ると、バックヤードへ入っていった。
数時間後、水野が戻って来た。
「渡瀬OKだぞ? 企画書も書いて、伊月さんにもハン貰ってあるから!」
「本当に? 有難う! 仕事早いね? さすが出来る男は違うね!?」
「だろ?」と言いドヤ顔をする水野。
私はぷっと吹き出し、麗華ちゃんと、3人で笑う。
「すいませーん」
お客様から声が掛かり、私が向かおうとしたら、麗華ちゃんが「私が行きます、明日頑張ってくださいね!」と言ってお客様の元へ向かった。
「なんかこの見合い逃したら、後がないみたい?…」と、私は苦笑いする。
「まぁ優良物件かどうかは知らないけど、気楽に行ってこいよ?」と水野が私の肩をポンと叩いた。
「うん。有難う。あと宜しく!」
私は売り場を後にする。