双子の御曹司
夕方になって、雨脚は更に強くなった様だ。
こんな天気だと、お客様の足も遠のくだろう。
人員を最小限にして、交通機関が動いているうちに、遠い人から帰すようにと、店長から指示があったのは16時過ぎだった。
佐野さんはパートさんで、通常17時までで、車通勤で、家も近いが、子供さんも居る。
この天気だから、もし、帰れなくなっては困る為、今日は、早く帰って貰う事にした。
「佐野さんお疲れ様です。気をつけて帰って下さいね。」
「麗華ちゃんも、今日はあがって? 電車が止まって帰れなくなると、行けないから?」
「え? でも私遅番だし…私より遥さんのほうが遠いですよ?」
「私は大丈夫。 いざとなったら、ホテルに泊まるから?」
麗華ちゃんは申し訳なさそうにして、帰っていった。
佐野さんと麗華ちゃんが帰ったあと、売り場の商品整理をしていると凪沙がやって来た。
「遥まだ居たの?」
「麗華ちゃんを先に返したから。 凪沙はあがり?」
「うん! うちは佐世保君が残ってくれるから!」
佐世保(させぼ)君は、今年の新入社員で家が近所らしい。
「そっか? お疲れ、気をつけてね?」
「遥、電車止まったら、うちに来ていいからね?」
凪沙のマンションは、車で20分ほどの所にある。
「有難う。 でも、遠慮しとく! 年下の彼に悪いし、目の前でイチャイチャされても嫌だし」と笑って手を振る。
閉店時間を迎えた頃、やはり地下鉄以外止まっていた。
途中までは、同僚に送ってもらい、帰ってこれたが、ここからは電車が止まっていて帰れない。
タクシーは帰れない人で長蛇の列、いつ帰れるかわからない。