双子の御曹司
売り場に戻ってからも、仕事が手につかない。
西園寺さんとは住む世界が違うと、納得した筈なのに、どこかで、まだ、あれは人違いだったのでは? と、思いたい自分が居る。
「よっ!渡瀬」後ろから肩を叩かれ、振り返ると水野が居た。
「水野どうしたの?」
「どうしたの? は、こっちのセリフおまえ最近おかしいらしいじゃん? 麗華が心配してたぞ?」
品出ししてる麗華ちゃんに目を向けると心配そうにこちらを見ていた。
「何でも無いよ…」と無理やり笑ってみたが、水野には効かないみたいだ。
「ちょっと良いか?」
水野は親指を立てバックヤードを指す。
「うん…」
麗華ちゃんと佐野さんに目で宜しくと合図をして水野に着いて行く。
「水野…何でもないから…」と言っても水野は何も言わず、食堂へと歩いて行く。
水野は、食堂の扉を開け誰も居ないことを確認すると、中へ入れと目で言われる。
16時を過ぎると食堂に入ってくる人は、ほとんど居ない。
話をするには丁度いい場所だと思う。
水野に、椅子に座るように言われ、腰を下ろすと水野も机を挟んで向いに座り、ひとつため息をついて話しだした。
「何か悩んでる?」
「何も…」
私は俯いて答える。
「月曜日の発注渡瀬がしたんだよな?」
「えっ発注? そうだけど… 何の話?」
思いもしなかった言葉が水野から発しられて、俯いていた顔を上げ、水野を直視する。
「発注がどうしたの!?」
「おまえ昨日入荷した商品確認してないの?」
え?
水野はまた大きなため息を付く。
「あっ!」
麗華ちゃんや佐野さんに任せたままで、伝票すら見ていなかった。
私は何をしてるんだ!…
「300円の恐竜水ピスの発注数入力ミスしてる。100発注かけてる!」
恐竜水ピスの発注数は1の入力で6個のはず…
600個!! えっウソ!?
言葉が出てこないどうしよう?…
「きのう麗華から電話もらって、助けて欲しいって頼まれた。今回は俺の方で何とかする。」
「何とかってどうするの?」
「半分は店間移動かける。」
「移動…?」