双子の御曹司
アンディさんは、フランスのクレラントホテルでシェフを務めて居たが、日本でお店を出す事になり、上手く行くか分からないからと、恋人のマリアさんと1年前に別れ、来日したらしい。
「私、どうしても諦められなくて、婚約指輪を自分で買って領主書をアンディに叩きつけたのお金払ってよね!?って!」
えっー??
「…………」
領主書…って?
あまりの事に驚いて言葉が出ない。
「ホント考えられないよな? 人の婚約指輪を買いに付き合わせられるなんて?」と西園寺さんは苦笑する。
じゃ、私が見たあの時に?
二人の話に、本当の事が分かって、喜んでいる自分に気付いていた。
良かった…
西園寺さんに、私、あんな言い方して… 私の事、嫌いになっていないだろうか?
安心と、新たな不安を感じていた。
マリアさんは『料理を持って来るわね?』と、奥へ入って行った。
「遥さん、怒ってない?」
「えっ? えぇ…」
「良かった…。」
西園寺さんはホッとした表情を見せた。
西園寺さんは…?
西園寺さんが、どう思ってるのか聞きたい。
でも、怖くて言葉が出てこない。
マリアさんからお詫びにと、出してもらったワインだが、西園寺さんは車だった為、申し訳ないけど、私一人だけが、頂いた。
お料理も美味しくて、ワインが進んでしまい少し酔ったみたいで顔があつい。
さっきまで不安に感じていた事など忘れて、ほろ酔い気分になっていると、西園寺さんは急に真顔になり、
「遥さん、お試し期間はまだ終わりませんか?」と、聞いてきた。
「え?」
「すいません…急かすつもりはないので、まだ待って欲しいというなら、勿論、待ちます。」
真剣な目で見つめられて逸らすことが出来ない。
勿論、自分の気持ちは決まっていた。
「西園寺さんは… 怒っていませんか?」
「え? 僕が怒る? 何をですか?」
「さっき、車で声を荒げてしまった事…」
「ふっ… 嬉しくは思いましたが、怒るなんてありえませんよ?」
「ほんとう…に?」
「ええ。」
「良かった…」
「でしたら…お付き合い宜しくお願いします。」と、囁いた。
「ホント? 本当に? ヤッターマジ嬉しいんだけど!」
西園寺さんは、椅子から立ち上がって喜んでくれた。
あの…キャラ変わってませんか?
「西園寺さん? 今までと雰囲気変わってるみたいですけど?」
「ああ。こっちがホントの俺!」
「はぁ?」
「遥ちゃんに嫌われないように、気をつけてたって言うかさぁ?」
遥ちゃん?…
「あっ、でも偽りの姿じゃないよ? ほとんどの人には、今まで見せてた姿しか見せないし、こんな俺を知ってるのは、家族とマリア達だけかな?」
「そぅなんだ…」
「がっかりした?」
「ううん。そんな事ないです。でもちょっと戸惑ってるかな?」と微笑んでみせた。
お店を出る時、マリアさんは表まで見送ってくれた。
「とっても美味しかったです。」
「でしょ? アンディの料理は世界一よ! また食べに来てね?」と、ハグされ、耳元で「竜仁はいい奴よヨロシクね?」と、マリアさんは囁いた。
私は微笑んで頷いた。