双子の御曹司
竜仁 Side
甥の稔は生まれつき心臓が弱く、月に一度検査の為に通院している。
ゆくゆくは、手術しなくてはいけないが、まだ小さな稔は体力的にも問題がある為、もう少し大きくなってからと、様子を見ている。
幼稚園に通っているが、皆のように走り回る事も出来ないうえ、通院のために大好きな幼稚園を度々、休まなくてはいけない。
検査も小さな子どもにとっては辛いと思う。
妹の雅が生まれてからは、通院を嫌がって両親を困らす事は無くなった。
『僕はお兄ちゃんだから!』と言って、注射も下唇を噛んで、泣かずに受けている姿を見ると、俺のほうが泣きそうになる。
雅が生まれてからは、勝士が病院に付き添っていたが、どうしても仕事の都合がつかないと言うので、今日は俺が付き添う事にした。
血液検査の時も泣かずにいる稔。
「稔、偉いな? 帰りに美味しいもの食べて帰るか?」
「僕、おもちゃ屋さんのお姉さんに会いに行きたい!」
「おもちゃか? よし行こう!」
やっぱり強がって見せても、子供は子供だ。 美味しいものより、おもちゃの方が良いらしい。
俺はいつも勝司が寄ると言っていた店に、稔を連れて行ってやる事にした。
稔はエスカレーターを降りるなり、玩具売場へと一目散に走りだし、それを見た俺は慌てた。
「稔! 走ったらダメだ!!」
強い口調で言うが、稔の耳には入らなかったようで、走っていた先で、女性従業員に声を掛けている。
稔は息も上がって無いし、顔色も変わっていない様だった。
良かった…
店員の彼女は稔の事を知っている様で、膝を折り稔の視線まで腰を落としてくれた。
「こんにちは。稔くん走ったらお胸痛くなっちゃうよ? それに他のお友達にぶつかったら危ないよ? だから走らないでね?」と、稔へ優しい眼差しを向けてくれる彼女はとても綺麗な人だった。
「すいませんご迷惑をお掛けして…」
俺が声をかけると、彼女は俺の顔を見るなり狐疑して居るようだ。
「失礼ですが…あの…お父様では…違います…よね?」
え?
俺が勝士じゃないって分かるのか?
俺達を見分けたのは両親と幼なじみの優里だけだった。
だから、そんな彼女に俺は目を奪われた。
稔は、彼女とテレビ番組の話をしてる様で、本当に楽しそうだ。
俺は彼女を見つめて、呆けていた。
「たっちゃん。今日はおもちゃ買わなくて良いよ!」
「えっ? 良いのか?」
「うん。 お姉さんに会いたかっただけだから!」
おもちゃが欲しくて、この店に来たんじゃなかったのか?
稔は、ただ彼女に会うために来たと言うのか…?