優しい胸に抱かれて
うとうとし始めた私に「無理するな。寝てていいって」と、揺れ動く頭をシートに押しつけられた。
「…忘れたいことは、どうやって忘れたらいいんですか?」
何を口走っているのだろう。誰にそんなことを聞いているのか。それとも敢えて本人に聞いているのだろうか。
現実と夢の狭間で、無理矢理口を閉じようとしているのに、私の口は言うことを訊かないでいる。
「…何?」
「忘れたいこと…。嫌なこととか、恥ずかしかったこととか…。どうやって忘れればいいんですか?」
「…忘れない」
「それじゃ、忘れられないじゃない…」
「無理に忘れようとするから、忘れられないんだよ。だから俺は忘れようなんて思わない。時間を掛けて自然に忘れるよ、そしてまた別の記憶が生まれてく」
重くなる瞼の向こう、夢心地で何気なく言われたことに「確かに」って頷いた。その通りだと思った。
でも、気長に時間を掛けてなんて、自然の流れに任せていられない。
一思いに忘れたかった。ずっと、忘れたかった。
忘れる前に突きつけられ、こうして時間を共有してしまったら、忘れていたはずの記憶が鮮明に思い出される。ちっとも忘れてないじゃないかと自暴自棄になる。
2年も時間があったのに、何をやっていたんだろう。
何をやってきたかの記憶はないのに、一番肝心な忘れたいことは忘れられないでいる。
『喚こうが、足掻こうが、そのまま潰れたければ好きにしろ』
どれもこれも、出来ない場合はどうしたらいいのだろうか。いや、出来ないことを見破られたから、落とされたんだ。
助けのロープには手が届かないまま、別の方法も探すことなく泣くこともなければ足掻くこともなく、ひたすらその場所で歯を食いしばっていた。
「…忘れたいことは、どうやって忘れたらいいんですか?」
何を口走っているのだろう。誰にそんなことを聞いているのか。それとも敢えて本人に聞いているのだろうか。
現実と夢の狭間で、無理矢理口を閉じようとしているのに、私の口は言うことを訊かないでいる。
「…何?」
「忘れたいこと…。嫌なこととか、恥ずかしかったこととか…。どうやって忘れればいいんですか?」
「…忘れない」
「それじゃ、忘れられないじゃない…」
「無理に忘れようとするから、忘れられないんだよ。だから俺は忘れようなんて思わない。時間を掛けて自然に忘れるよ、そしてまた別の記憶が生まれてく」
重くなる瞼の向こう、夢心地で何気なく言われたことに「確かに」って頷いた。その通りだと思った。
でも、気長に時間を掛けてなんて、自然の流れに任せていられない。
一思いに忘れたかった。ずっと、忘れたかった。
忘れる前に突きつけられ、こうして時間を共有してしまったら、忘れていたはずの記憶が鮮明に思い出される。ちっとも忘れてないじゃないかと自暴自棄になる。
2年も時間があったのに、何をやっていたんだろう。
何をやってきたかの記憶はないのに、一番肝心な忘れたいことは忘れられないでいる。
『喚こうが、足掻こうが、そのまま潰れたければ好きにしろ』
どれもこれも、出来ない場合はどうしたらいいのだろうか。いや、出来ないことを見破られたから、落とされたんだ。
助けのロープには手が届かないまま、別の方法も探すことなく泣くこともなければ足掻くこともなく、ひたすらその場所で歯を食いしばっていた。