優しい胸に抱かれて
■さらけ出す
……………

あの夕陽を眺めたドライブから1ヶ月後、12月の話。

先日の大雪は勢いよく根雪にまで持ち込んで、路肩に寄せられた雪は周りが見渡せないほどの壁を作っていた。

天井まで張り出された青一色のパーティション。

慌ただしく出入り口から出ようとした私と、入ろうとした彼が勢いよくぶつかった。

『…うわっ、びっくりした』

『ぎゃーっ。あーっ、主任っ! すみません』

『出入りは特に気をつけろって何度も言ってるんだけど?』

呆れた声が振り落とされた。当然、彼の抱えた書類が床にばさばさと散らばった。慌てて拾い集めようとした私に遠くから叫び声が響き渡る。

『柏木っ、早く来いっ!』

間仕切りの向こうから聞こえてくる大きな声に、自然と背筋が伸びる。

『はいっ! 前川課長、今っ、今すぐ行きます!』

『あはは。こっちはいいから、早く行けよ』

『で、でもっ…』

フロアの奥と彼の姿を交互に忙しなく頭を動かす。私の手から拾った書類を取り上げると『また怒鳴られるぞ』と、背中を押した。

『ほんと、すみませんっ…』

小走りで前川さんの元へ行くと、やっぱり怒鳴られたのは当然だった。しおしおと似合わないことをしてみたがもちろん効力なんてものはなく、浴びせられた目線を合わすことが出来なかった。

『何やってたんだ、遅い』
 
『すみません…』

人とぶつかっていたとは言えず、叱責され肩を窄める私にとんでもない要求を突きつけてきた。

『本来なら建築士とアシスタントはセットでクライアントのところへ出向いてヒアリングとプランニングを行うのだが、この通りすでに終わって図面は完成済みだ。この案件のアシスタント、見積もりから契約に発注、建設確認申請まで1人でやってみろ』

机に置かれていた分厚い設計図書とファイルを叩く。
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