優しい胸に抱かれて
それから、数日後の12月15日の朝。彼らの製図試験の合格発表の日。昨晩私は、緊張し過ぎて眠れなかった。
また島野さんのデスクに人の輪ができていて、やっぱり迷惑そうにマウスとキーボードを操作する。
『…何だってまた俺が調べるんだよ。受験番号っと…』
文句言いながらも何だか嬉しげに目元に皺を作る。
『どうしよ…。クライアントとの打ち合わせより緊張する…』
目を瞑って、両手を合わせ祈っているのはやっぱり私だけだった。
『だから何で、お前が緊張するんだ。祈ったって結果は出てるんだぞ』
『…え?』
瞳を開けると、その場にいた全員が笑っていた。
『あ、…前は騙されたから今日はちゃんと開けてます!』
『って、閉じてるだろ?』
『だって…』
そろりと薄眼を開けて声のした方を見る。隣で彼は笑顔を向けていた。
『どれどれ、…日下は合格。工藤は…、えーと。工藤の番号は…』
『…まだ、ですか…?』
『だから、何でお前が急かすんだよ』
握った両手が震えて、やっぱり怖くなって目を閉じてしまった。
なんで私が、こんなに緊張していたのか。
まさか声を掛けられるなんて思ってもいなかった、入ったばかりの頃。空いた時間に少しでも吸収しようと、なぽりで勉強していたのを知っていたから。それが例え、数十分、数分、数秒の時間でも。
難しい顔でナポリタンを頬張りながら、片手にはフォーク、もう片手には教本。毎日、毎日、私はそれを見ていたから。
だから、絶対受かって欲しい。
お願いしますと、ぎゅっと力を込めた。