優しい胸に抱かれて

服飾のイベントで造ったドレスを着用し、ファッションショーのコンテストで優秀賞を貰った直後に撮られた写真だった。

『…なっ、な、何で、何で。何でここに…、平っち! どうして!』

『噛み過ぎだし。何でって、俺の友達が東翔大出てて柏木の名前出したらそれ貰った。佐野光男って知ってる? 誰でも持ってるんじゃないかって言ってたけど』

『知らないよ、そんな人。誰でもなんて…、持ってるわけないでしょ。何で持って来ちゃうのよ!』

『面白そうだったから』

面白そうって、ちっとも面白くない。まじまじと食い入るようにまだ見てる彼の腕にしがみつく。


『工藤主任、返してくださいっ』

『これ、柏木のじゃないじゃん?』

『え? 確かに、そうですよね。…いや、そうじゃなくてっ』


『で、誰なんだよそれは?』

いまいち状況の掴めていない日下さんは苛立ちを見せる。彼はたまりかねて日下さんへもう一度写真を見せる。

『柏木とその友達だろ?』

『何っ? 何処がだよ、何で分かるんだよ?』

『紫の方が柏木で、赤い方が柏木の友達。見れば分かる』

『全然分かんねぇ。どうしてこれがこうなるんだ?』

実物と写真を見比べ、日下さんは相当驚いている。それでいて、すごく嫌味だった。


『それは、メイクが上手だったんです!』

『別人じゃねぇかよ。それとも合成か? こっちの女は素が綺麗だろ?』

『渚…、あ、彼女はメイクしなくても綺麗な子ですけど…』

『だろうな。お前、どんだけ盛ったんだよ。プチ整形の度を超してるぞ、女のメイクは怖えぇな』

確かに、自分のものとは思えないくらい睫毛は重たくて、色んな色が重ねられて完成した顔だった。

『工藤主任っ、見過ぎですっ』

『そう?』

って、微笑まれたからって私は引き下がれない。
< 131 / 458 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop