優しい胸に抱かれて
服飾のイベントで造ったドレスを着用し、ファッションショーのコンテストで優秀賞を貰った直後に撮られた写真だった。
『…なっ、な、何で、何で。何でここに…、平っち! どうして!』
『噛み過ぎだし。何でって、俺の友達が東翔大出てて柏木の名前出したらそれ貰った。佐野光男って知ってる? 誰でも持ってるんじゃないかって言ってたけど』
『知らないよ、そんな人。誰でもなんて…、持ってるわけないでしょ。何で持って来ちゃうのよ!』
『面白そうだったから』
面白そうって、ちっとも面白くない。まじまじと食い入るようにまだ見てる彼の腕にしがみつく。
『工藤主任、返してくださいっ』
『これ、柏木のじゃないじゃん?』
『え? 確かに、そうですよね。…いや、そうじゃなくてっ』
『で、誰なんだよそれは?』
いまいち状況の掴めていない日下さんは苛立ちを見せる。彼はたまりかねて日下さんへもう一度写真を見せる。
『柏木とその友達だろ?』
『何っ? 何処がだよ、何で分かるんだよ?』
『紫の方が柏木で、赤い方が柏木の友達。見れば分かる』
『全然分かんねぇ。どうしてこれがこうなるんだ?』
実物と写真を見比べ、日下さんは相当驚いている。それでいて、すごく嫌味だった。
『それは、メイクが上手だったんです!』
『別人じゃねぇかよ。それとも合成か? こっちの女は素が綺麗だろ?』
『渚…、あ、彼女はメイクしなくても綺麗な子ですけど…』
『だろうな。お前、どんだけ盛ったんだよ。プチ整形の度を超してるぞ、女のメイクは怖えぇな』
確かに、自分のものとは思えないくらい睫毛は重たくて、色んな色が重ねられて完成した顔だった。
『工藤主任っ、見過ぎですっ』
『そう?』
って、微笑まれたからって私は引き下がれない。