優しい胸に抱かれて

日下さんから1枚を奪い、もう一枚は彼の手にある。どちらかといえば、手の届かないところにかざされたこっちの方が重要だ。こっちの一枚は私しか映ってない写真。

ワイシャツの裾を掴んで必死に奪い取ろうとする私に、彼は苦笑いを浮かべて観念したかのようにその腕を下ろす。

『わかった、わかったよ。平に返すよ。その疑ってるような目は信用ないな?』

疑いの眼差しを向けている私は、きちんと返されるかどうかをじっと見届ける。彼は残念そうに写真を手放し、やっとの思いで平っちの鞄に戻され、ほっとして自分の席に戻った。

『面白かったっしょ?』

『平っちの馬鹿っ』

彼が一級建築士に受かり、心底喜んでいたはずだった私は、写真を見られた衝撃で帰るまで膨れっ面を見せていた。


隠していたわけじゃない、出し惜しみしいていたわけでもない。

自分のことをさらけ出すのは物すごく恥ずかしいことだった。衣服を身に付けないで外を練り歩くのと同じくらいの羞恥心だと思っていた。


時には熱くなって、時には恥ずかしい一面を見せて、時には弱音を吐いて。自分の持っている力を全てつぎ込んで一つの店舗を仕上げる。みんなが同じ方向を向いているから出来ること。


解らないながらも、確かなものを掴み取って拾い集める。

拾い集めたそれは『自信』って言葉が書かれた木の実みたいなもので、『失敗』とか『悩み』だとかの名前が付いた木の実は土の中で芽を出し、違う命にふきかえられる。

それは、『誠意』、『結果』、『信頼』という大きな力を生み出していった。
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