優しい胸に抱かれて

■追いかける

……………

年が明け、正月の休みボケがなかなか解消されず、作業場でまったりとした時間が流れていたある日。

島野さんは散々悩んだ末、出向を決意した。悩んでいたのは残していく奥さんのことだった。

『奥さん、大丈夫なんですか？』

『話し合った結果だからな。安定期とはいえ不安定だから実家にいてもらってる』

『だから最近センスねぇんだ。目がチカチカする、出向行くのやめれば？』

島野さんの奥さんは妊娠中で、春には赤ちゃんが産まれる予定だった。一緒に行くことも考えてはいたようだった、知り合いもいない、友達もいない土地に連れて行くのは可哀想だと。断ろうかずっと悩んでいてそれでも、出向に行くのを決意した。

彼と島野さんと日下さんの会話に、私は静かに聞き耳を立てていた。

日下さんがさらりと言った嫌味な一言に島野さんを盗み見すると、グレーのスーツにピンクのワイシャツ、真っ黄色のネクタイを締めていた。

島野さんは『センスがないってどういう意味だ。選ぶのに１時間掛かったんだぞ』などと、おかしなことを言っていた。

色材の三原色、空色（シアン）、赤紫（マゼンタ）、イエローのうちの黄色をそこに持ってくるあたり、島野さんは本当にセンスがない人なんだと、３人が深刻な話をしている中。

ほんとだ、目がチカチカする。と、瞳を歪ませた顔をディスプレイで隠し、気づかれないように大きく頷いた。

『そういうわけにもいかないんだよ。日下、お前も家庭を持てば嫌でも分かるぞ？　その前に彼女か。ところで、お前は何で彼女作らないんだ？』

『佐々木さんみたいなのはマジ勘弁。女なんか面倒くせぇだけ』

『あいつはくっついたり離れたり、何回も繰り返してるからな。それでもお互いの良さを解っているから離れられないんだろうな。つまり、お前はよっぽどこっぴどく振られたんだな？』