優しい胸に抱かれて
気配を消し、部のフロアへ舞い戻るとすでにみんなの笑い声は消えていた。
一課へ郵便物を置き、そのまま一課と二課の作業場内を繋ぐ動線を突き進む。
『郵便物、置いときますね!』
誰に向けたものでもなく、その場にいた全員へとそう告げた。
すかさず鞄と上着を手に『日下さん、すみませんっ。プラージュの契約書は週明け一番で作ります! お疲れ様でしたっ』と、なるべく大きな声で告げ、残っている人々へ背を向けていた。
滞っている仕事はなく頼まれていた仕事も、心配事もない。
今までの中で、一番と言っていいくらいの素早い動きを見せられたみんなは、遅れて『…おいっ、柏木!』って、特別用があるわけじゃないのに、姿を消した私に叫び声を上げていた。
みんなからどう思われているかなんて、言われなくたって明白だった。普段から馬鹿だの、童顔だの、単細胞だの。私のことを表すそれは、固有名詞と化していた。
それよりも、最後に向けられた『嫌い』って言葉が、どうしようもなく悲しかった。
たくさん迷惑をかけて、たくさん泣いたあの日。
本当は面倒だなって困っていたんだ。でも、自分が先輩だから、仕方なしに私を迎えに来てくれたんだ。
先輩と後輩、上司と部下の関係はそれ以上でもそれ以下でもなく、それだけでしかないのに、その関係に甘え過ぎていたんだって思ったら、想いとは裏腹に拒絶を示していた。