優しい胸に抱かれて
嫌いって言葉は、振り払っても着いてきて、走っても追いかけてきた。
『意味もなく泣かれても困るし、面倒な女も嫌いですね』って、言ったその口で映画に誘って、優しい顔をして平気で苦しめる。
ひどい人だと思った。
彼は私の気持ちなんて知らないのに、都合よく解釈している自分もひどいっていうのに。何も考えられなくなっていた。
地下鉄のホームまで全速力。普段、鈍くさいって言われている私が誰にもぶつかることなく人混みをかき分けて、満員の車両に体を滑り込ませた。全身を使って息をしていても他の乗客は気にもしていない。至って自然に帰路を急ぐ群に溶け込んだ。
翌日が会社が休みで少し救われた気がした。
2日間の休日は何をすることなくベッドの上でぼんやり天井だけを見つめていた。ある意味、これが最上級の休息ってやつだった。
悲しくても泣かなかった。泣けなかった。
好きになった人には好きな人がいたのは最初からあった事実で、その段階で気づいてはいけない想いだった。
想いが通じなくても好きでいるだけでよかった。せめて、嫌われないようにするのでいっぱいいっぱいだった。
好きでいることさえ許されない。
その好きな人に、そう言われたみたいだった。
嫌いって言われたから、泣きたかった。
分かっていたのに、好きになっちゃいけないって。どうして、好きになっちゃったんだろう。