優しい胸に抱かれて
だけど、連れてってくれたその人は私を店舗のフロアに案内した後、来た道を戻っていった。
『…それは、俺だよ』
『それならそうと、早く言ってください…。もう一度お礼言おうとしたらいなかったから』
『あはは。そこから、何か気になって見るようになったんだ。気づいたら好きになってた』
『…じゃあ、私と一緒です。私も気づいたら好きでした』
目が合って恥ずかしそうにする私に、ぱっと彼は天井に視線をずらす。
『うーん…、理性と戦ってるのにこれは結構きつい』
そう言われ、また私は体を強ばらせ、それを彼はおかしそうに笑った。
頭の下には彼の腕があって、暖かい胸の中で、深夜だということも忘れお互いの家族の話を繰り広げ、どちらからともなく眠りについた。
改めて、付き合ってくださいと言われ、はいと答えたその夜、夢を見た。
『平、何してんだ?』
『美人女子社員のランク付けっすよ。今んとこ、トップは総務部総務一課の吉平ですけど。2位は総務部経理二課の滝村。3位は僅差でなんとうちの柏木』
『…お前は合コンの心配だけしとけ。その前に仕事しろよ。…だけどなぁ、吉平は美人だわな』
『滝村も美人だよな? ところで、柏木は美人の部類に入るのか?』
『柏木? まさかだろ? ロリ顔。童顔。ドジ、おっちょこちょい。些細なことですぐ泣きそう。面倒臭そう。岸の方が好み、白黒はっきりしてるだろ?』
『金山、それは言い過ぎだろ。俺は断然柏木。日下は?』
『佐々木さんこそ普段柏木に冷てぇのに。美人って話なら滝村。平は?』
『俺は商品部の本木さんですよ、よっしーは怖い。畑山さんは誰なんですか?』
『いや、俺は吉平だな、隣並んでも恥ずかしくない。絶対柏木は無理。一緒に歩いててロリコンとかって指さされたくない。…工藤、そうだろ?』
『まあ確かに…。ロリコンって言われるのは嫌ですね、しかも指さされて。意味もなく泣かれても困るし、面倒な女も嫌いですね』