優しい胸に抱かれて
『へえ、嫌い? よく言うよ。何言ってんのお前?』
『いやいや、面倒臭そうとかすぐ泣きそうとか言ってるから。柏木は意味も無く泣いたりしないでしょ。面倒臭いってこともないし』
『回りくどいんだよ。とか、なんとか言って要するに柏木が好きなんだろ?』
『そうそう、しかもメチャクチャ本気の』
『バレバレ』
『畑山さんの振りが悪いんですよ、工藤に柏木を否定できるわけないっすよ』
『会社でイチャつくなよ』
『ははっ、佐々木さん。それはひがみですか? それに、みんなして柏木否定してますけど、みんなの方がなんだかんだ言って柏木好きでしょ?』
『好きじゃねぇよ。ちょっと目が離せないだけだろ!』
『まあ、何か粘り強いよな、よく辞めなかったよあいつ』
『よく言えば熱心、勉強家』
『たまに頑固で物わかり悪過ぎ』
『天然なとこ癒されるよな?』
『それは佐々木さんだけ。あいつは単細胞』
『お前、ロリコンか?』
『それは佐々木さんでしょう? 俺は絶対に違いますから』
『あ、島野さんにもアンケート取ろうっと』
『だから、お前は合コンの心配だけしとけって』
パーティションの外側で私がひっそりと最後まで聞き耳を立てていて、見えていないのにみんなの様子が手に取って見えるくらい、はっきりと分かる。口と態度が悪いけれど、見守ってくれている先輩たちがいた。
彼のことをたくさん知れば知る程、近づいた気になった。近づいただけで、触れられたわけではなかった。
それに、私は気づけなかった。