優しい胸に抱かれて
 株式会社ルミエールサプライに入社してもうすぐ丸5年。

 私は柏木 紗希(カシワギ サキ)。27歳。みんなから童顔だの馬鹿だの鈍いだの言われ続けている。

 店舗デザイン事業部、施工管理二課の管理係長という肩書きを貰って1年。

 飴2に対して鞭8、飴と鞭を上手に使い分けてくれない職場環境にはとっくに慣れ親しんでいた。


 勤め先は平たく言えば建築会社。建築、設計、施工から自社製品の開発。敷地内には一般向けのショールームを構え、店舗デザイン事業部以外にもマンション事業部、今期からオフィス事業部を立ち上げ、新築や改装を一から手がける。

 私がいる店舗デザイン事業部は、新店舗、新築、既存の店舗の改装や移転、元々店舗として使用していた物をそのまま使う居抜き。何もない抜け殻から造り上げるスケルトン、物件は様々。


[施工]はデザイン設計、施工。[管理]は発注、納品店舗と打ち合わせ等の業務。いくつかのグループに編成され一つの店舗を作り上げる。


 難点は建物の最上階に位置し、正面入り口から一番奥に当たること。

 長い長い廊下を抜けたところ、人里から隔離されているかのようなフロアで、一課、二課とそれぞれの課で分かれてはいるが、アイデアを出し合い、手を借りながら毎日わいわい物騒がしく、比較的仲がいい部署。

 決まっているのは出勤時間くらいで、仕事さえしていればあとは何してようが誰からも文句は上がらない。

 組織という枠を弁えながらも、形に囚われることなく自由に過ごす。

 だから、奥まったところに孤立されているのだろう。他部署に比べスタンスは大違い。
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