優しい胸に抱かれて
二人しかいない空間は心の音が漏れそうなくらい静かで、自動販売機の機械音すらかき消すように、風も吹いてない室内にざわざわと木々に例えた鼓動が揺らいでいる。
「そ、それは…、私もだから。癖で…」
吸い込まれそうな瞳を向けられ、まともに目を合わせられなくなって顔を背ける。
「癖、ね。これも癖だな」
柑橘系のセドラの香りと共に、彼の手が顔の前まで伸びてきて、驚いて目を瞑る。その指先は私の眉間を押さえる。
「すぐ眉が寄るところ、とか? 前髪アップにしてるからわかりやすくなったな。髪も伸ばしてんの?」
瞳を開けた瞬間に訪れる心が奪われた感覚、胸が激しく高鳴った。本日一番の騒がしさだ。
何を考えているのかわからない微笑みを浮かべている。
細長い指先によって封じられた動きに、忘れたはずの記憶の一部を取り戻してしまった。
ゆっくりと離れた左手。その薬指には銀色に輝く指輪。
「髪は切る暇がなかったから。私、そろそろ行かなきゃ…」
俯き加減で言ったのは目が見れなくなったから。作り笑いを浮かべ立ち上げると作業場へと逃げ戻った。
「そ、それは…、私もだから。癖で…」
吸い込まれそうな瞳を向けられ、まともに目を合わせられなくなって顔を背ける。
「癖、ね。これも癖だな」
柑橘系のセドラの香りと共に、彼の手が顔の前まで伸びてきて、驚いて目を瞑る。その指先は私の眉間を押さえる。
「すぐ眉が寄るところ、とか? 前髪アップにしてるからわかりやすくなったな。髪も伸ばしてんの?」
瞳を開けた瞬間に訪れる心が奪われた感覚、胸が激しく高鳴った。本日一番の騒がしさだ。
何を考えているのかわからない微笑みを浮かべている。
細長い指先によって封じられた動きに、忘れたはずの記憶の一部を取り戻してしまった。
ゆっくりと離れた左手。その薬指には銀色に輝く指輪。
「髪は切る暇がなかったから。私、そろそろ行かなきゃ…」
俯き加減で言ったのは目が見れなくなったから。作り笑いを浮かべ立ち上げると作業場へと逃げ戻った。