優しい胸に抱かれて
「しーっ」
口元に指を当て、声を抑えるように伝えると、彼女は申し訳なさそうに小声で話す。
「へへっ、だからへの字なんですね。この二人は誰ですか?」
「…誰だったかな、昔に作った物だから忘れちゃった。さてと、今日はもう遅いから上がっていいよ、疲れたでしょ? これは月曜日でいいから、宛名もメッセージも手書きだから覚悟しておいて。そうだ、今度時間ある時、新しいデザイン考えてもらおうかな。これ、ずっと使い回してるから…」
とぼけて知らない振りをするのが精一杯。
並べた中の1枚。
特徴のない顔といつの日か島野さんに笑われていた人と、まだ髪が短かくセミロングだった何も知らなかった頃の自分。
まだ残っていたらしいそれを手にして、足下のゴミ箱の中で手を離すとパサッと落ちた。形として残った一部をゴミへと捨てる。
消えない記憶もこうやって、簡単に捨てられるようにできていればいいのに。
消せない記憶は切りたくても切り離せない。いつだって着いて回るから、気持ちが混乱しているだけ。
今日が金曜の夜だから、余計に疼いているだけ。
でも、きっと。
私は彼の薬指に光る指輪に、この先ずっと囚われて行くのだろう。
口元に指を当て、声を抑えるように伝えると、彼女は申し訳なさそうに小声で話す。
「へへっ、だからへの字なんですね。この二人は誰ですか?」
「…誰だったかな、昔に作った物だから忘れちゃった。さてと、今日はもう遅いから上がっていいよ、疲れたでしょ? これは月曜日でいいから、宛名もメッセージも手書きだから覚悟しておいて。そうだ、今度時間ある時、新しいデザイン考えてもらおうかな。これ、ずっと使い回してるから…」
とぼけて知らない振りをするのが精一杯。
並べた中の1枚。
特徴のない顔といつの日か島野さんに笑われていた人と、まだ髪が短かくセミロングだった何も知らなかった頃の自分。
まだ残っていたらしいそれを手にして、足下のゴミ箱の中で手を離すとパサッと落ちた。形として残った一部をゴミへと捨てる。
消えない記憶もこうやって、簡単に捨てられるようにできていればいいのに。
消せない記憶は切りたくても切り離せない。いつだって着いて回るから、気持ちが混乱しているだけ。
今日が金曜の夜だから、余計に疼いているだけ。
でも、きっと。
私は彼の薬指に光る指輪に、この先ずっと囚われて行くのだろう。