優しい胸に抱かれて
■楽しかった
‥‥‥‥‥‥
私たちの交際は、それはそれはぎこちなく不器用に始まった。
次の日の朝、目を開けると彼がこちらを見ていた。
前日のあれは夢じゃないんだと、本当に付き合い始めたんだと実感した朝だった。
彼の優しい笑顔は何度も見てきたがそれとは違う、見たことのないような幸せそうな笑みが側にあった。
『おはよ』
『おはよう、ございます…。な、何、見てるんですか?』
『寝顔。もうちょっと見てたかったんだけど』
『…いつから?』
『5時から』
その言葉に、壁にかけられた時計に目が行く。短針は6の数字を指していた。
『いっ、1時間も…』
寝ていたとはいえ、1時間も寝顔を見られていたなんて恥ずかしい。と、布団をかぶろうとした瞬間、それを遮るように腕を掴まれた。
そんな慌てる様子を彼は笑って『よく皺が付かないな? ここ』と、私の眉と眉の間に口付けする。唇が離れ、『困った顔、割と好き』そう言いながら不意に身体を抱き締められた。
『…寝たの遅かったから、まだ眠いだろ?』
『主任は眠いですか?』
『うん、眠い。でも、寝顔見れるなら我慢する』
耳のすぐ近くで話す彼の、吐息がくすぐったいのと恥ずかしさで腕の中で暴れた。
『や、やだ! 眠っても絶対、主任より早く起きますっ』
『あははっ、やだって。じゃあ、俺が紗希より遅く寝るよ』
さりげなく呼ばれた名前に、胸に押しつけられていた頭を上に起こす。
『…名前』
『嫌?』
『嫌じゃないです…』
『紗希?』
優しく響く名前は心の中でぽっとろうそくが灯されたように暖かくて、嬉しさで胸がくすぐられた。再び、名前を呼ばれ動く唇を目で追う。
『紗希、俺のことも名前で呼んで? …その前に俺の下の名前知ってる?』
『…主任、馬鹿にし過ぎです。好きな人の名前くらい、もちろん知ってます』
私たちの交際は、それはそれはぎこちなく不器用に始まった。
次の日の朝、目を開けると彼がこちらを見ていた。
前日のあれは夢じゃないんだと、本当に付き合い始めたんだと実感した朝だった。
彼の優しい笑顔は何度も見てきたがそれとは違う、見たことのないような幸せそうな笑みが側にあった。
『おはよ』
『おはよう、ございます…。な、何、見てるんですか?』
『寝顔。もうちょっと見てたかったんだけど』
『…いつから?』
『5時から』
その言葉に、壁にかけられた時計に目が行く。短針は6の数字を指していた。
『いっ、1時間も…』
寝ていたとはいえ、1時間も寝顔を見られていたなんて恥ずかしい。と、布団をかぶろうとした瞬間、それを遮るように腕を掴まれた。
そんな慌てる様子を彼は笑って『よく皺が付かないな? ここ』と、私の眉と眉の間に口付けする。唇が離れ、『困った顔、割と好き』そう言いながら不意に身体を抱き締められた。
『…寝たの遅かったから、まだ眠いだろ?』
『主任は眠いですか?』
『うん、眠い。でも、寝顔見れるなら我慢する』
耳のすぐ近くで話す彼の、吐息がくすぐったいのと恥ずかしさで腕の中で暴れた。
『や、やだ! 眠っても絶対、主任より早く起きますっ』
『あははっ、やだって。じゃあ、俺が紗希より遅く寝るよ』
さりげなく呼ばれた名前に、胸に押しつけられていた頭を上に起こす。
『…名前』
『嫌?』
『嫌じゃないです…』
『紗希?』
優しく響く名前は心の中でぽっとろうそくが灯されたように暖かくて、嬉しさで胸がくすぐられた。再び、名前を呼ばれ動く唇を目で追う。
『紗希、俺のことも名前で呼んで? …その前に俺の下の名前知ってる?』
『…主任、馬鹿にし過ぎです。好きな人の名前くらい、もちろん知ってます』