優しい胸に抱かれて
□捨てる覚悟
本当なら休みの土曜日の朝。
家に閉じこもっていても辛気臭くなるだけだと、出社すれば日下さんがデスクにかじり付いていた。正確には片腕を枕にもう片方の腕で顔を覆い隠し眠っていた。
繁忙期も終盤、納期の締め切りに加え、事務処理作業に追われた連日。あと数日でこの忙しさから解放されると、躍起になって昨晩は全員が遅くまで残っていた。
私の場合は、それでなくても旭川のロスを少しでも取り戻さなければならなく、泊まり込みで仕事を終わらせたかったが、島野さんに「送ってってやるから大人しく帰れ」と、朝の件があったからか上司らしく、威厳みたいなものを見せつけてきて、黙って送られた。
その島野さんの黒いワンボックスカーの車内で、「何も、お前が旭川に行くことなかっただろ。今日のサワイクラフトだってな…」と、私のことを気にしているらしかった。
「仕事…、だから」
「辛いか?」
「…平気です」
本当のところ、辛いかどうかよく分からない。ただ、平気ではないのだろうと人事みたいに感じたのは、好きだった想いがあまりに強かったことを思い出して、平気だと返事をしなければおかしくなりそうだった。
「馬鹿だな、お前は…。あいつが戻ってきてから上手く笑えてないくせに」
「どうせ、馬鹿です…」
流れている音楽は何かのアニメの主題歌のようで、車の中には島野さんの子供のおもちゃが置いてあった。それとは似つかわしくない話題を逸らすことができなかった。
口が悪く、横暴な態度でいてくれればいいのに、時々優しく扱おうとするから、胸がきりきりと苦しくなる。
家に閉じこもっていても辛気臭くなるだけだと、出社すれば日下さんがデスクにかじり付いていた。正確には片腕を枕にもう片方の腕で顔を覆い隠し眠っていた。
繁忙期も終盤、納期の締め切りに加え、事務処理作業に追われた連日。あと数日でこの忙しさから解放されると、躍起になって昨晩は全員が遅くまで残っていた。
私の場合は、それでなくても旭川のロスを少しでも取り戻さなければならなく、泊まり込みで仕事を終わらせたかったが、島野さんに「送ってってやるから大人しく帰れ」と、朝の件があったからか上司らしく、威厳みたいなものを見せつけてきて、黙って送られた。
その島野さんの黒いワンボックスカーの車内で、「何も、お前が旭川に行くことなかっただろ。今日のサワイクラフトだってな…」と、私のことを気にしているらしかった。
「仕事…、だから」
「辛いか?」
「…平気です」
本当のところ、辛いかどうかよく分からない。ただ、平気ではないのだろうと人事みたいに感じたのは、好きだった想いがあまりに強かったことを思い出して、平気だと返事をしなければおかしくなりそうだった。
「馬鹿だな、お前は…。あいつが戻ってきてから上手く笑えてないくせに」
「どうせ、馬鹿です…」
流れている音楽は何かのアニメの主題歌のようで、車の中には島野さんの子供のおもちゃが置いてあった。それとは似つかわしくない話題を逸らすことができなかった。
口が悪く、横暴な態度でいてくれればいいのに、時々優しく扱おうとするから、胸がきりきりと苦しくなる。