優しい胸に抱かれて
未だ寝息を立て眠っている日下さんが、描いたであろうパース図はデスク上に散乱していた。そこらじゅうに原案が散らばっているってことは、帰らなかったのだろう。
机の片隅に開きっぱなしで置いてある、過去のプラージュ山鼻店のファイルのページは未熟なアシスタントだった私の、拙い文章が羅列してあった。
あまり見られない隙を見せている日下さんは、すやすやと子供みたいな寝顔を腕の間から覗かせていた。
「あ、意外に睫が長いんだ」
物珍しそうに観察をしていたところに、島野さんがこれまた珍しく3週続けての休日出勤に、グレーのジャケットに黄色のTシャツ、ジーンズといったカジュアルな格好で登場した。
「何だ、柏木も来てたのか。おはようさん」
「おはようございます。…島野さん、どうしたんですか?」
昨晩、「どうせお前、明日出社するんだろ? 俺は家族サービスだ、休むからな」なんて言っていたような気がする。思い違いだろうかと、視線を持ち上げた。
「さすがに、追い込み掛かってる旭川組に悪いからな。ライレンジャーのイベントすっぽかして来たんだよ」
やり場のない溜め息を吐いて、自分の席に歩いていく島野さんを目で追う。
「ライレンジャーのイベント?」
「…んあ、ちっ。…うるせぇな」
寝言とも取れる言葉を発した日下さんは、眠気眼でこちらを見上げる。「あ、寝言じゃなかった」と呟いた私に対して、眉間に彫られた皺が「うるさい」と、無言の圧力をかけていた。
「すみません…」
すかさず謝ったのは条件反射。どうやら寝起きはすこぶる機嫌が悪いらしい。
「日曜日の朝、テレビでやってる、戦隊ものだ。稲妻戦隊ライレンジャーって番組だ。息子を連れてく約束してたんだけどな。朝から嫁さんと子供にぎゃーぎゃー騒がれてな」
昨晩、車内で流れていたあのBGMはその何だかレンジャーとやらの主題歌だったんだ。
机の片隅に開きっぱなしで置いてある、過去のプラージュ山鼻店のファイルのページは未熟なアシスタントだった私の、拙い文章が羅列してあった。
あまり見られない隙を見せている日下さんは、すやすやと子供みたいな寝顔を腕の間から覗かせていた。
「あ、意外に睫が長いんだ」
物珍しそうに観察をしていたところに、島野さんがこれまた珍しく3週続けての休日出勤に、グレーのジャケットに黄色のTシャツ、ジーンズといったカジュアルな格好で登場した。
「何だ、柏木も来てたのか。おはようさん」
「おはようございます。…島野さん、どうしたんですか?」
昨晩、「どうせお前、明日出社するんだろ? 俺は家族サービスだ、休むからな」なんて言っていたような気がする。思い違いだろうかと、視線を持ち上げた。
「さすがに、追い込み掛かってる旭川組に悪いからな。ライレンジャーのイベントすっぽかして来たんだよ」
やり場のない溜め息を吐いて、自分の席に歩いていく島野さんを目で追う。
「ライレンジャーのイベント?」
「…んあ、ちっ。…うるせぇな」
寝言とも取れる言葉を発した日下さんは、眠気眼でこちらを見上げる。「あ、寝言じゃなかった」と呟いた私に対して、眉間に彫られた皺が「うるさい」と、無言の圧力をかけていた。
「すみません…」
すかさず謝ったのは条件反射。どうやら寝起きはすこぶる機嫌が悪いらしい。
「日曜日の朝、テレビでやってる、戦隊ものだ。稲妻戦隊ライレンジャーって番組だ。息子を連れてく約束してたんだけどな。朝から嫁さんと子供にぎゃーぎゃー騒がれてな」
昨晩、車内で流れていたあのBGMはその何だかレンジャーとやらの主題歌だったんだ。