優しい胸に抱かれて
「ちまちまなんかやってたのはこれか。…ってか、これ何だよ?」
振り向くと日下さんは私の席の前で、タティングレースをつまみ上げ顔を険しくさせていた。
「多分、雪の結晶です」
「雪の結晶? 蜘蛛の巣じゃねぇのか、へったくそだな。こういうのは向いてねぇな、あいつ」
それに何て返していいかわからず、私は島野さんの机の周りを片づけ始めた。サンダルを揃え机の下へと引っ込める。
「そんなのほっとけ」
「出しっぱなしにされると私が困るんです。引っかけて転びそうになってコーヒーこぼしたり」
「お前、仕事できるようになってもまだそんなドジすんのか?」
「…たまに。だから、出きることやって未然に防いでるんです」
「ドジは死ぬまで直らねぇな」
止めの一言を放った日下さんは、お味噌汁を啜りながらデスクの反対に回り、島野さんの机の上を荒らし始めた。
島野さんの机の上にあった書類は、私が島野さんのアシスタントをした案件ばかりだった。日下さんが荒らしている書類はそれだ。
気まずそうに席に着いた私は、日下さんがゴミだと言ったパース図へと手が伸びる。
以前ならああでもないこうでもないと中途半端なパース図を見比べて頭を悩ませ、試行錯誤を繰り返していた。それを捨ててしまえるくらいの覚悟は自分の能力を信じているから。自信があるから。
その場、その時に浮かんだアイデアを捨ててしまうのは勿体ない。こっそり隠しておいて最後にファイルに綴じておこうと、机の引き出しを開ける。
いつかの退職届が目に飛び込んできた。日付は入社1ヶ月目、出さずに済んだ退職届。
島野さんが言った[よからぬこと]は、これのこと。
「ゴミ、取っておくんじゃねぇよ」
不機嫌そうな声がした方を向くと、予想通り不機嫌そうな瞳で日下さんがこちらを見ていた。
「勿体ないですよ、せっかく…」
「どっちが勿体ねぇんだよ。見返したって何にもなんねぇ。…溜め込むから身動きできねぇんだろ」
振り向くと日下さんは私の席の前で、タティングレースをつまみ上げ顔を険しくさせていた。
「多分、雪の結晶です」
「雪の結晶? 蜘蛛の巣じゃねぇのか、へったくそだな。こういうのは向いてねぇな、あいつ」
それに何て返していいかわからず、私は島野さんの机の周りを片づけ始めた。サンダルを揃え机の下へと引っ込める。
「そんなのほっとけ」
「出しっぱなしにされると私が困るんです。引っかけて転びそうになってコーヒーこぼしたり」
「お前、仕事できるようになってもまだそんなドジすんのか?」
「…たまに。だから、出きることやって未然に防いでるんです」
「ドジは死ぬまで直らねぇな」
止めの一言を放った日下さんは、お味噌汁を啜りながらデスクの反対に回り、島野さんの机の上を荒らし始めた。
島野さんの机の上にあった書類は、私が島野さんのアシスタントをした案件ばかりだった。日下さんが荒らしている書類はそれだ。
気まずそうに席に着いた私は、日下さんがゴミだと言ったパース図へと手が伸びる。
以前ならああでもないこうでもないと中途半端なパース図を見比べて頭を悩ませ、試行錯誤を繰り返していた。それを捨ててしまえるくらいの覚悟は自分の能力を信じているから。自信があるから。
その場、その時に浮かんだアイデアを捨ててしまうのは勿体ない。こっそり隠しておいて最後にファイルに綴じておこうと、机の引き出しを開ける。
いつかの退職届が目に飛び込んできた。日付は入社1ヶ月目、出さずに済んだ退職届。
島野さんが言った[よからぬこと]は、これのこと。
「ゴミ、取っておくんじゃねぇよ」
不機嫌そうな声がした方を向くと、予想通り不機嫌そうな瞳で日下さんがこちらを見ていた。
「勿体ないですよ、せっかく…」
「どっちが勿体ねぇんだよ。見返したって何にもなんねぇ。…溜め込むから身動きできねぇんだろ」