優しい胸に抱かれて
ナポリタンしか食べない人。とりあえず、回りには一人もいない。目の前の彼を除けば。
そんなに嫌だろうか、相手が何を食べるかは自由。強要されなければ、別の物を食べればいい。嫌じゃない、そう思って口を開く。
『え…。そう、ですか? さすがに三食ナポリタンはどうかと思いますけど。すごくモテそうなのに、主任に彼女がいないのって、なんだか不思議です』
そこまで言って、また後悔する。彼女がいないのはもしかしたら何か事情があるかもしれないじゃないか、と。
今の話だって、ナポリタンしか食べないから嫌だと言われたとか。
『…好きな相手に見向きもされなかったら、モテても困るだろ?』
『あ、確かにそうですよね。主任、好きな方いるんですね』
私の問いには返事をしなかった。
真剣な表情は想いが強い表れ、その時の瞳は真っ直ぐでブレてなくて、その人が本当に好きなんだな、って感じ取っていた。
もう彼は食べ終わったというのに、私はまだ半分もお皿に残っていた。慌てて、ペースを上げようとするも、普段は自分のペースだからか、うまくいかなかった。
『あはは。慌てて食わなくてもいいって。ゆっくりでいいよ』
いつの間にか運ばれてきたコーヒーの隣で、テーブルに頬杖付き私が食べ終わるのを待つ視線が突き刺さる。相手はただ眺めているだけなのに意識してしまって、余計に時間が掛かった。
『…ごちそうさまです』
『ごちそうさま。あのさ、…人のこと言えないけどさ、柏木もオムライス率高いよな?』
オムライスのふんわりした卵みたいに、ふあっとして目元を綻ばす彼は、顔を両手に乗せたままこちらを見ていた。
『なっ、…何で知ってるんですか?』
『んー…、俺も柏木と同じ。いつも一人で食べてて寂しくないのかと、見てたから?』