優しい胸に抱かれて
一緒にいたいと言ってくれているのだから、思いのままに一緒にいればいいだけのことが、どうすべきなのか。気にするなって言われても気になって、邪魔はしたくないのに一緒にいたい。悩みに悩んで思いを複雑にしていった。
会社では会えるのだから贅沢過ぎる、何も淋しく感じることなんかない。我慢、我慢。心の中で言い聞かせるように、邪魔しちゃいけないと、唱えていた。
試験が終わって受かってしまえば、またゆっくりと楽しい時間を一緒に過ごしていける。だから、大丈夫。『合格しますように』毎晩、両手の指を絡めて祈るのが日課だった。
だけど、本当はずっと淋しくて仕方がなかった。
邪魔しないようにと自分で決めたことなのに、心が折れそうになった。
車を下り、部屋に帰ってから電気も点けず座り込み、しばらく呆けていた。重い腰を上げカーテンを閉めようと立ち上がり、窓へと近づきカーテンの端を手に掛けた。
ふと視線が向いた窓の外、建物の前の道路にはまだ彼の車がハザードを点滅させ停まっていた。ぼんやりとしていた時間はほんの数分。時計は見ていないから正確には分からないが、5、6分程度。
走り去る様子のない車を窓のこちらから見下ろしていた私は、鞄を手に気づいたら外へと駈けていた。
素早く乗り込んだ車の運転席では、驚いた顔をしたのは一瞬で、すぐに穏やかな表情を見せる。
『どうして…、まだいるの? 帰らないの?』
『ん? 紗希の部屋に電気が点くまで。路駐するわけにいかないしさ、ドアの前まで送ってあげられないから。せめて電気点くまではと思って』
『いつから、そうしてたの?』
『最初から』
『もっと早く…、教えて…』
『紗希のことだから、部屋入ってすぐ電気点けなきゃって思うだろ?』
『うん、思う…』
『だから言いたくなかったの。バレちゃったけどな。だけど、バレたってところはおあいこだろ? 紗希の嘘はバレバレ』
ぽんぽんと頭上に置かれた手を取り、『今日は一緒にいたい』そう告げた。