優しい胸に抱かれて
『めそめそしてるって聞いてどんなもんかと思ってみれば…。一度や二度、ちょっと躓いたくらいで、この世の終わりみたいな声を出すなよ。何を謝ってんだ?』
ちょっと躓いたくらいじゃなかった。手術が必要なくらいの大怪我だった。
だって、『その想い、大事にするんだぞ』って言ってくれたのに、大事にできなかった。
『大事に出来なかったってそんなに言うなら、その想いを大事にしろ。それが次に繋がるから。お前だけをきちんと見てくれる奴がどっかその辺に必ずいる』
『そんな人、いません…』
『簡単に決めつけるな。柏木、待ってろよ。あと1年で戻るからな。戻った時には俺の部下としてお前が必要なんだ。解るか?』
『解りません…』
『だから、簡単に答えを出すな。大人しく待ってろ。おっと、3分経ったな』
最後に決め台詞を乗せて切れた電話を、いつまでも握りしめていた。
見かねた佐々木さんが携帯を取り上げて、私の頭を撫でた。
『慰めてやるって言ったけど、俺じゃ役不足だ。ごめんな?』
優しい手つきでよしよしと撫でられて、私は力一杯頭を振った。
テーブルの上には、ミルクティーやらカフェオレやら、サンドイッチにおにぎり、たくさんのおやつが並べてあった。
『佐々木さんっ…。現場、行ってください。平っちも…、仕事行って』
『馬鹿、現場は俺がいなくたって回る。こんなお前を放っておけないだろ』
私はどこまでみんなの足を引っ張れば気が済むのだろう。仕事があるのにその手を止めさせている。
頭の上にある佐々木さんの腕を掴む。
『…早く行ってください。優しいのはもう嫌なんです。もう…、優しさはいらないっ』
『柏木…』
佐々木さんにぶん殴って欲しいとお願いしたら、困惑顔をして『これでいいか?』って、耳を摘まれた。