優しい胸に抱かれて
耳を引っ張られ痛いはずなのに、痛みという感覚は生まれなかった。
再び現れた部長は、仕事しろと平っちと佐々木さんを追いやってくれた。
ティッシュで目を覆い隠す私に、バサバサッと何かを投げつけてきた部長は感情のない声を出す。
『どうなりたいんだ、お前は。この頃に戻りたいのか?』
と、同時にタバコの煙が鼻を刺激した。
視界を塞いでいたものを外すと、大量のプリント用紙がテーブルを占領し広げられたおやつの上で、蔑むかのように主張する。
ただレ点を付けてチェックするだけで何にも使われず、最終的に躊躇なく捨てられたはずの書類の山が再現されていた。
『アシスタントとしてはまだまだ甘さがある。インテリアデザイナー、本気でなりたいのか? もう一度、インテリアプランナー受ける気あるのか?』
受けた試験の合格発表は2月だった。彼が受けた試験の合格発表より私の発表時期が遅く、それに合わせて一緒に見た。
両手を合わせて祈って、画面には当然の結果が現れた。彼は一級建築施工管理技士を取得し、私はインテリアプランナーの試験に落ちた。
『紗希? これで終わりじゃない。一度受けて雰囲気は掴めたんだからさ、落ちても次がある。次は大丈夫、受かるよ』
次は大丈夫、そう慰められた。
次、なんて考えられない。次っていつ。今じゃないなら次に繋がるっていつだろう。
仕事や他の事を考えられるほど、私は器用に心を操れない。
『お前の穴埋めは保谷に任せてある。後輩が先輩の尻ぬぐい、か…。次の日の事を考えないで男に振られて泣くしか能がない、今のお前に需要はない』
返事ができないでいる胸の内を見透かされたかのように、冷淡な口調で口角を上げる。