優しい胸に抱かれて
部長が投げていった書類の山の中に、1枚の企画提案書を見つけた。商品部と各デザイン事業部合同で、什器やインテリア類の企画を行い商品化を目的としたものだった。
逃げないで、四の五の言わずやれってことなんだと思った。
可能性を導くスポットライトの光が突然消えたかと思いきや、みんなによって再び照らされた気がした。
まだ、私を必要としてくる人がいるなら、頑張ろう。
もう、考えない。理由なんか、知らなくたっていい。頑張って、忘れる。泣くのは、今日限り。
そうでも言い聞かせなかったら、本当にいつまでもこのままだ。
私は変わりたかった。
明日、部長飽きられようが構わない。今日だけは、涙は止まらないから。
[感情]を裁ち切った次の日、部長は『昨日と同じ』と、朝礼を済ませ私を呼びつけて一言言い放った。
『昨日よりはマシだな』
その日以来朝礼の後、部長室に呼ばれるのが日課となった。
『…つもり? 相手に伝わっていないてことは説明していないのと同じだ』
『何だ、言い訳か? お前のしょうもない言い訳を聞きたいわけじゃない。どうせ言い訳するなら納得のいくような言い訳を考えろ』
『自分で言ったことに責任を持て。誰かに言った以上、自分はその倍は動け。言葉は生きていると思え』
『話っていうのは勝手気ままにひとりでに歩いているようなもんなんだ。言った言わないの低次元ななすり合いはやめろ。文書に残せ』
『物事には理由ってものがあるんだ。どうしてこうなるのか理由をしっかり考えろ』
毎日、毎日呼ばれて、毎日、毎日矛盾を感じながらも『はい』としか返事できない私に。
『自分を主張できない、イエスマンだけの部下はいらない』
いつしか『はい』とも言えなくなった。
しばらくは、目頭にこみ上げてくる熱いものをじっと堪える日々が続いたが、それも段々と減っていった。
[なぽり]へと行けないでいた私を、マスターが心配していると連れ出したのはやっぱり部長だった。