優しい胸に抱かれて
部長が憎たらしくなって今日こそは何も言わせないと意気込むも、言い負かされて終わる日常を繰り返した。
何時間も何日も掛けて書き上げた什器やインテリアの案は、見もしないで突き返されることはしばしばあった。
『そこらのネットショップに出回っているようなありきたりな商品で、熱意が伝わるのか?』
独創性がなさすぎる。と、却下され次の案を練り出すと。
今度は、インテリアがでしゃばり過ぎる、店舗のデザインを殺すな。
何を提出してもこんな具合にあしらわれ、『頭を隅々まで使って、足を動かせ』と、誰にも止められることなく、頭も体も帰ることも忘れて常にフルに動き、部長に刃向い続けた。
おかげですっかり余計な事を考える暇がなくなっていた。
幾つかの色づく季節を何も感じず通り過ぎ、次は受かるその言葉通り、インテリアプランナーには合格した。
1年が経ち島野さんが戻ってきて、私は管理係長の職を与えられた。
『柏木! お前、随分垢ぬけたな』
『島野さん、お疲れさまでした。早々に出かけますから支度してください』
私を見て島野さんは眼鏡の奥で双眸を細め、何か言いたげな顔をしていたが有無を言わさず、サワイクラフト大通店のヒヤリング初日に連れ出した。
島野さんのふざけペースに狂わせられながらも、適度にみんなとじゃれ合い、適度に距離を保つ。
少しずつ、ゆっくりとこの日常に慣れていった頃。部長に呼び止められ[なぽり]で軽々と蹴落としてくれた。
懐かしい香りを纏い、変わらない優しい笑顔を貼り付けて、左手の薬指に輝く銀色の指輪をはめて、予想より早く戻ってきてしまった。
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頑張れば、みんなに追いつける。みんなの足を引っ張らないで済む。
頑張って、インテリアデザイナーになって、彼が戻ってきた時。また、もしかしたらって淡い期待。ほんの僅かな甘い考えも閉じこめてしまえばよかったのに。
期待なんてしちゃいけないのは私がよくわかっているじゃない。
繋がっていたはずの頼りない糸はとっくに切れているっていうのに。頑張ってもインテリアデザイナーにはなれなかったっていうのに。
さっさと忘れてしまえばよかったのに。
だから、詰めが甘い、浅はかだって言われてばかりいるんだ。