優しい胸に抱かれて
 しかし、黄色とスーパーマンは何が関係しているのかわからなくて聞いただけだった。

「馬鹿か、スーパーマンといえば黄色だろ! 鈍いからわからないのか?」

 そう怒鳴られたが、私が見ているパソコンの画面のスーパーマンから、カラーを例えるとしたら…、赤だろうと。妥協しても青だ、黄色ではないと首を捻る。

 普段面白くないけれど、この微妙なセンスは面白い。私を鈍いだの鈍感だの言うけれど、センスが鈍感なのは島野さんだった。
 

「てめえは、喧嘩売るために電話してきたのか?」
 
「そんなつもりじゃないんですけど…」

 島野さんは店舗レンジャーなんて例えたけれど、みんなの存在は私の中で深く刻まれていて、なんだかんだ言われてばかりでもみんなと仕事するのは楽しくて、まだまだ一緒に仕事したいと決心を鈍らせる。


「柏木、4月2日までもうちょっと俺らに付き合え。どうせ、最後に電話してみようって軽い気持ちで電話してきたんだろ」

 それは本当に図星だった。

 拒み続けた電話をしたのは、最後だと思えばどうってことない気がしたから。言うならば軽くっていうのは妥当なのかもしれないが。

 口が悪いし、時々火傷しそうなくらい熱くなる人だけれど、頼れる人で温かい人だから、甘えてしまいそうになる。仕事以外の話されると本気で困るから避けてきた。


 どうして4月2日なんだろうと過ぎったが、自分が課長になるからだろうか。だけど、昇格し肩書きが変わるくらいで島野さんは島野さんだ、何も変わらないだろう。
 

「軽い気持ちじゃなくて…、割と一大決心だったんですけど」

「そうだったのか? てっきり軽く電話してきたんだと思ったが、人同士の思いはなかなか伝わんないもんだな…」
 
 電話してから数分が経ちよほどパパと遊んで欲しいのか、ほんの数分、島野さんならきっと3分と言うだろう。子供からしてみれば長電話と受け取ったらしくぎゃあぎゃあ泣いていた。

 
「誰もお前の退職届は受け取らないだろう」と、それだけ言って島野さんは一方的に電話を終わらせた。
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