優しい胸に抱かれて
 顔を埋めたふかふかのバスタオルは赤ちゃんのミルクが染み付いた、優しい匂いがした。


「…部長は全部、わかってたんですよね。だから、…昨日と、同じ、って…、言い続けてっ」

「泣くか喋るかどっちかにしろ」

「泣かしているのは部長ですっ」

「俺じゃないだろうが、工藤だろ。それにな俺だけじゃない、工藤の想いはみんな知っていた。島野や佐々木、平に。当然、日下もな。日下は俺のせいだと自分を責めていたが」

「日下さんのせいじゃない…。私が…っ、悪いっ!」


 日下さんでもない。俺の問題って言った彼でもない。

 私が、きちんと向き合わなかったからだ。

 大事にできたはずなのに。



「誰も悪くない、俺はそう思うけどな。…そうだな。あの時のお前らに言えることがあるのなら、お互いが好き過ぎるってことくらいだろうな。俺は工藤に忠告したぞ、その指輪は紛らわしいから外せ、ってな。外したら意味がない、だとか言ってすっとぼけて…」

「もっと…、強く忠告してください」

「馬鹿か。お前ら全員、俺の指示を無視して言うこと利かないだろ」

「イエスマンはいらないって、部長が言ったんです」

「上の言いなりになったところで、面白くないだろ。決められた仕事ばかりこなして何が愉しいんだ?」

「そうかもしれませんけど…」

「せっかくチャンスくれてやったのに、無駄にしてすっとぼけていたあいつもあいつだが。…それだけお前のことが大事なんだ、解ってやれ」

「大事だって言うなら、きちんと話して欲しかったです。私は待っていたかったんです。私の2年、知らないじゃないですか…」

「その様子じゃ昨日渡した封筒の中身、隅々まで見てないんだな」

「封筒…」
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