優しい胸に抱かれて
「まあまあ、柏木なんかにいちいち腹立てても。怒る方が馬鹿らしいでしょ、大人げないですよ?」

 島野さんより1歳下の佐々木さんが止めに入る。

「この鈍ちんが生意気でな…」

「佐々木さんっ。馬鹿らしいって、どういう意味ですかっ」

 話を続けようとする島野さんを遮って、むっとして声を荒げた。

 すると、佐々木さんは振り向様にデザインパーマを当てた髪の毛を揺らし、切れ長の瞳を更に細くさせ睨みを利かせる。


「うるせえ! いちいち絡むな、この童顔がっ。馬鹿にされてるってことをいちいち言われなければわからない程馬鹿なのか。お前は少し黙ってろ。話がややこしくなる、わかったのか?」

「なっ、童顔じゃありません!」

「いちいち絡むな、黙ってろって言ったばかりだろ。誰が童顔じゃないだと? こらっ、どの顔が言ってんだ?」

「痛い…。ち、ちぎれるっ」

 止めに入ったはずの人がこうして絡むから話がややこしくなるんです!と、言いたいところだが、耳を摘ままれ思い切り引っ張られたから抵抗はやめておいた。

「本当にちぎってやろうか? わかったのか?」

「はい…、わかりました」


 うちの施工長、佐々木さんも口が悪い上に、すぐ手が出る。

 一級建築士ではないから出向はなし。でも、二級建築士は取得済み。うちの一級施工管理技師、施工の技術者、早い話が職人のような役割。この人も二課の施工係長に出世だから、やっぱりこれでも機嫌がいい方なんだ。

 ちなみに32歳、独身。こう見えて10年も付き合っている彼女がいる。


「何してるんだ?」

「いえ、何も…」

 長島課長の登場で全員が押し黙るのは、長いものに巻かれているわけでも媚びを売っているわけでもなく。顔だけじゃなく口調も無愛想すぎて不毛な小競り合いに戦意が喪失してしまうだけだった。

 長島課長は春から次長になる。が、その出世を喜んでいるかは謎。

 ちなみに38歳、既婚。中学生の大きな子供がいる。
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