優しい胸に抱かれて
□解けぬよう
「…どうした?」

 戸惑いを含ませた声色で囁くと、私の頭に頬を寄せた。

 のは一瞬で、「…熱い」と、確かめるように首元から頬の辺りを、背中から離れた彼の左手が覆う。


「誰に虐められて泣いてるの?」

「島野さん…」

「俺じゃないだろ!」

「島野さん、どういうこと?」

 聞いたことのない気の張った鋭い言い方は、見たことのない怒りを絞り出している。

 でも、その低い声にぴくっと緊張する背中で感じる手は、優しさそのもの。


「馬鹿め、泣かしてるのはお前だ。間違いなくお前が原因でめそめそして挙句に暴れた結果、熱が上がったんだろ。そんな顔するくらいなら二度と離すな。…本当は、日下に抱きついていたのが気に入らないんだろ?」

 熱の入った口調で話す島野さんは、最後、馬鹿にしたように笑った。


 耳元でカサカサと揺れる紙の音は、あの島野さんが企てた幼稚な計画書を見せられたんだと思った。


 読み終え全てを察したのか肩で大きく息を吐く。私の体も一緒になって上下に動いた。

「クロス貼り手伝っただけで、足場って…。島野さん、無茶し過ぎ」

「全部お前が悪い」

「確かに…。紗希、歩ける?」

 小さい頷きを見せた私に抱えるように寄り添って、応接間まで連れて来られる。

 ソファーに座らせると、頬に手を添え瞼に指を当て滴る涙を拭う。

「何で、そんなに泣いてるの? …俺が、死んじゃうと思った?」

 眉を落とした切なそうな顔がじわりと滲んだ視界に映り込む。
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