優しい胸に抱かれて
「ったく、あいつらは…。馬鹿ばっかりで困ったもんだ」

「いい加減、前川部長を許してやってください、と。許すも許さないも、…許してほしいのは俺の方だってのに」

「それなら俺も同じようなもんだ。お互いさまでいいんじゃないのか? 時効ってことにしないか?」

「…お前も馬鹿な男だ」

「それだってお互いさまだ」


 紘平の手をぎゅっと握ると、強く握り返してくれて「紗希? 涙目になってる」と、自分の瞼に指を乗せて見せた。


「倉光は俺んとこで引き取ることにした。俺がいなきゃ、倉光はお前の下でデザイナーになってただろうなあ。それと、スライディングウォールも引き取ってやる。その代わりまけろよ」

「俺は値引きをしない主義だ。ところで、独立したんだってな? どうだ、順調か?」

「まあ、ぼちぼちってところだ。…あいつは元気にしてるか?」

「まあ、そうだな。2人目、産み落として昼に退院したばっかりだ。女の子だ」

「そうか…。お前に似なきゃいいな。女の子でお前みたいな怖い顔だったら哀れだ」

「目は俺に似ているぞ?」

「そいつは同情するなあ…」

 処かしこに威厳を含ませた話し声のあとに、高笑いが起こる。


「紗希? 行こうか? 見せたい場所があるんだ」

 体を屈め覗き込むようにそう言って、私の手を引っ張って歩いていく。

「どこに?」

「着くまで内緒」

「内緒は嫌だって…」

 そこまで言って口を閉ざしたのは、今は聞いちゃいけないと思ったから。


「お楽しみは着いてから。内緒が封印されたから、紗希にはサプライズできなくなったな?」


 そこはきっと、私の知りたかった場所だ。みんなが一服しに行く場所。
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