優しい胸に抱かれて
 どれにもみんなの面影があって、でも知らない場所で、不思議な感覚だった。だから、遠く街の上で頬をほんのりと染めた空を見上げるみんなの背中が、知らない人に見えた。


「柏木。ここは初デビューだったか?」

 振り向いた島野さんの顔が逆光で陰る。声だけで島野さんだと思ったけれど、違う人かもしれない。なんてことはなく「鈍いから聞こえてないのか?」と、馬鹿にした。


 日下さんはベンチで寝そべっていて、佐々木さんはパイプ椅子で足を組んでいた。ポケットに手を突っ込んで咥え煙草の島野さんは、ガーデンチェアに腰を下ろす。

 そこへ、平っちがトレイにポットとカップを手に現れて、「みんなコーヒー飲むでしょ?」と。これは常習化しているのだろう、そう平然と言い放って、島野さんがいるテーブルへ置いた。


「なぁ、佐々木さん。やっぱカーポートつけねぇ? 屋根が欲しい」

 ベンチの背もたれから煙が吐き出され、日下さんが顔を上げた。

「それで我慢しとけよ」

「…ビーチパラソルじゃねぇか。いちいち片付けんの面倒くせぇ」

 よく見れば、ベンチやテーブルらは地面のコンクリートに固定されている。飛散しそうなものは物置へしまうらしい。


「何やってんだ?」

「これっすか? 美人社員のランク付けっすよ」

「お前、まだそんなことしてんのかよ?」

 島野さんの声に平っちが紙切れを見せる。それを覗き込んだ佐々木さんが呆れた顔し煙草を咥えた。


「なんと、丹野が3位」

「その丹野は平のことが好きなんじゃないのか?」

 島野さんの台詞に驚いたのは平っちではなく私だった。

「嘘!」

「気づいてないのはお前くらいじゃないか?」

 と、私の頭を片手で掴んだ島野さんは「仕事ばっかしてるから、鈍いんだ」そう付け足した。

 どのあたりで気づく要素があっただろうかと、考えを巡らせるもなかなか浮かんでは来ない。
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