優しい胸に抱かれて
「ありゃ、マジだ。そろそろ、落ち着いて丹野にしとけよ」

「えー、俺まだ遊んでたいのに…」

「そう言って婚期を逃すんだよな」


 他にも選択肢があったはずなのに、あろうことか平っちって。プライベートだけは褒められたものじゃない。どうしちゃったの、彼女は。やめとけって止めるべきなのか、平っちはいい奴だからとでも言って応援するべきなのか。

 雑多な心の中で先輩風を吹かせる私をそっちのけで、続く話はひとりでに歩いてしまっていた。


「で、1位は誰だよ?」

「よっしーですよ、不動の1位。柏木は残念ながら7位」

「おっ、美人じゃなく童顔だって気がついたか?」

 3人がああでもないこうでもないと真剣に談義をする中、日下さんだけは興味がないようで、涼しい顔で空を見上げている。


「…くだらねぇな。柏木、コーヒーくれ」

「はい」

 催促され持っていくと、体を起こした日下さんは目元を歪ませコーヒーを啜る。日下さんが起きたことで空いたスペース。その隣に紘平が腰を下ろす。


 2人が並んでコーヒーに口をつけていて、それが掴みどころのない奇妙な絵面なのに、とっても微笑ましい。


 そんな後ろ姿に見入っていた私に平っちの声が飛んでくる。

「柏木ー、いつ飲みに行く?」

「…え?」

「サワイクラフトのお礼。約束したじゃん」

「…約束した覚えはないよ」

「付き合い悪いんだって。いいじゃん、2人で行こうぜ?」

「急に、どうしたの? 合コンは?」

「合コンは先週やったの。今週は暇なんだよ、たまには同期で飲むのもいいじゃん?」

 何か企んでるんじゃないかと疑いの心で顔を顰める私に、むくれた平っちは大きく口を開けた。

「あーっ、その顔。なんか疑ってる!」

「そりゃそうだろ、警戒心も強くなるよな? 柏木、丹野に嫉妬されたくなかったら平とだけはやめとけよ。俺と2人で行くか?」

 今朝の続きでもしたいのか、佐々木さんが割って入ってきて私の首に腕を回し、頭をぐしゃぐしゃ撫でる。嫉妬されるのは嫌だけれど、佐々木さんと飲みに行くのも嫌だ。
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