優しい胸に抱かれて
#強い独占欲
毅然とした紗希の姿が映り、2年の歳月はあまりにも儚くて長かったことが伺える。
『紗希?』
そう呼ぶ声は決して届かない。手を伸ばしても触れられない。
事もなげな態度に別人と映るのも無理はない。みんなにとっては「いつも通り」。なのだろうが、俺の目にはぎこちなさが見え隠れして、なんとも言えないやり切れない淋しさがふわふわ浮かんでいる。
再会から2週間経っても、手に入らない夢を見る。離してしまったことに対しての後悔が胸を噛むのを感じて、目を覚ます。
曖昧な意識の中、遠くでガチャガチャッと音を立てている。
誰かが鍵のかかった玄関ドアの把手を上下に揺する、乱暴な音。の後、ガチャリと扉が開いたらしく。
「ああ、もうっ!ちょっとー、絋平っ!開けてよ。ドアロック外せっ」
そろそろくるだろうと踏んではいたが、やっぱり来た。
忘れた頃に、俺の素行を邪魔しにやってくるその声の主に会うのだって2年振りだ。
すっかり意識を取り戻し、舌打ちをしたくなるのを思い留めたのは、シャンプーの香りを優しく纏わせ、腕の中で身じろぐ紗希だった。
体を抱き締め紗希の耳に口を近づける。
「紗希?服着て」
ぴくりと僅かに動きを見せる。薄眼を開けた紗希をもう一度強く抱きしめて、腕に乗った小さな頭を枕へとそっと乗せる。
ベッドの下に落ちている服を全て拾い、シャツに袖を通しズ綿パンに足を突っ込んだ。
「聞こえてんのー!?早く開けてよっ!!」
わかったから静かに待ってろって。今何時なんだよ一体。
壁にかけられた時計に目をやると短い針は10を指していた。
素足をスリッパに引っ掛け、上体を傾けた紗希に服を手渡すと掛け布団から白い肌を覗かせた。
「服着たら出ておいで」
そう言って、布団で肌を隠す紗希の乱れた髪の毛を撫で、朝っぱらからドアの前で騒いでいる女を迎え入れに寝室を出る。