優しい胸に抱かれて
「さっ。さ、さ。さ、きちゃん!?紗希ちゃんじゃない!な、なんで!?なんでここにいるの!?嘘でしょ!?」


なんでって、それこそ失礼だろ。

こっちだって、いつまでもやられっぱなしでたまるか。


必要以上に慌てふためいている姿に、可笑し過ぎて笑い声を上げた。

「あんた、騙したわね!」

「そっちが勝手に勘違いしたんだろ。それより、立ってるついでに冷蔵庫から水取って…」

と、俺が言い終わる前に、姉が紗希を思い切り抱きしめていた。

「紗希ちゃんーっ」

「ん、…綾子さんっ、。苦しいですって。あ、いや、苦しいのは私じゃなくて綾子さんだと思うんですけど…」

「この馬鹿な弟のところに戻ってきてくれたのね」

紗希が慌てて体を離そうとしているのはお構いなしだ。舐めるように紗希の体を撫で回す。


いいから水を取れよ。


目に涙を浮かべて紗希に抱きつく、大袈裟な姉の横を通過して冷蔵庫に向かう。

紗希までもらい泣きしている。紗希の場合、もらわなくても泣くのか。そう納得し、取り出したペットボトルの水を一口、乾いた喉に流し込んだ。

「ちょっと、紗希ちゃん痩せたんじゃないの?ちゃんと食べてる?」

「まあ、それなりに…。お腹、触ってもいいですか?」

「へへっ、大きいでしょ?」

照れ笑いを見せ、お腹を両手で抱えた。もうすぐ待望の第一子が産まれる、身重なのだ。

臨月で、いつ産まれるかもわからないのに飛び出してくるってことは、それ相当のことがあったに違いない。のだが、けろっとしていているところを見ると、どうせしょうもないことだろう。


恐る恐る手を伸ばし、お腹に触れた紗希は大事そうに撫でる。


そんな感動している紗希の、涙なしではいられない喜びの再会を邪魔する声。だけど、会いたがっていたのはこちらも同じらしい。

「もう会えないかと思ったわよ。私の義妹は紗希ちゃんしかいないんだから。こんな馬鹿な弟でごめんねー。紗希ちゃんに会いたかったー」

「馬鹿、馬鹿言ってないで、わかったから離してやれよ。紗希は風邪引いてて病み上がりなの」
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